急に胸がひどく痛む、あるいは背中が強く痛む時は、まず病院へ。
苦い思い出があります。
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患者さんもどうしようと迷って、朝になって来られて、CT室で検査中に破れて亡くなられました。
ほぼ即死で手術室まで間に合わなかったのです。
スタッフを招集して道具を揃えてでは、どんなに早くても1時間かかります。
あと半日、いやあと1時間早く病院へ来てくれたら助かったのに・・・というのは何度もあります。このように
急性大動脈解離は時間勝負です。
マルファン症候群の患者さんはこうした病気を発生しやすいため、注意が必要です。
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少し余裕があったら左右の血圧を測る。
左右の差があればおかしい。
左右の手足で、どこか1つだけ血圧が低いということが あれば、かなりの確率で解離です。
今まででこんな痛みは初めてというような場合、明日の朝まで待たず、ただちに連絡して診てもらう。
検査した結果、大した事ないですよとなったら喜んで帰っていただけます。
すでに大動脈解離が診断されている場合、痛みがある場合はすぐに病院へ。
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弁の逆流に関しては、息切れがするとか、今までと比べて疲れやすいとかしんどいことがあれば、早めに主治医に伝えましょう。
定期検診を続けていれば、症状の出現も参考になりますが、その若干前くらいにわかることが多いです。
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●質問:知り合いの医師や病院の情報がない場合は、最寄の大きな病院や大学病院など、どこがいいのでしょうか?
お答え:大学病院は、本来は総合病院の最もよいスタイルです。
大学病院でも緊急手術に対応すると表向きには言われることがあります。よく聞くと、1例はやれる。
でもすでに何か1例 やっている最中なら、それが終わるまで待ってくださいとなる。
それは緊急対応とは言えないのです。
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大病院では何十と科があり、いつもひとつぐらいは緊急や長時間手術の夜間への延長などがありますから、実際には本当の緊急手術は入れないのです。
残念ながら急性対応には最も不利な病院です。
大学病院時代に解離を手術したほとんどは院内で発生した解離でした。
院外からの大動脈解離の多くは近くの民間病院で手術しました。
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アメリカのジョークで、病院の中で急患が発生して先生どうしよう となったら救急車を呼んだら良いというのがありましたが、日本では現実であるわけです。
緊急の実績のあるところは、総合病院の場合も専門病院の場合もあります。
救急車は行き先が決まらないと動けない。
そこでの時間が惜しいことがあります。
日本の病院でしっかりとした緊急対応をやっている病院をランクの上から順々に見たら、その大半は民間の病院です。
急性解離とか心 筋梗塞後の左心室の破裂とか、超緊急に関しては、外科医は1人では対応できません。
小さいチームでは通常1人(手術の時に院外から助っ人が来 る体制)、せいぜい2人なので緊急には対応ができず、たらい回しが起こります。
私たちの所では、4人常勤体制を作って、
学会に行くなどの場合でも、病院に は2人はいる状態で、必要あらばすぐに1人か2人帰って来られるようにしています。
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では、一部の大学病院のように10人以上も先生がいれば一見手厚いように 見えますが、
それは日ごろあまり手術をしていない先生がいることになります。
チーム全体の手術数も大切ですが、1人当たりの手術数ということも大事です。
平素から足腰を鍛えていて、さらにクオリティーコントロール(ベテランがはりついて同じ質の手術ができるように)がされている、
本来、大学病院はそれでないといけな いのですけど、日本の現実はそうとは限りません。
雑用をしてくれる人が必要なので、大勢いの医師を抱えざるをえないのです。
そのため手術がめったにできないとい う人もいるのです。
何事も内容を吟味して考える必要があります。
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●質問:緊急時(解離や破裂)に備えて、何が大事なのでしょうか?
お答え:日ごろから勉強して、(緊急時の場合どうするかという)工夫をしていて、
起こればすぐに対処するということをすると、まず元気になれる確率は非常に高いです。
その時になってからビックリするというのではなくて、日ごろから態勢を作っておくこと。
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患者さんの大動脈や解離を手術をさせてもらって、ご家族とお話するとき、
「ところでご家族の中で、心配な方おられませんか?」と聞いてみるとやっぱり、誰それが心配になっているとか、親が亡くなっているというお話がけっこうあります。
心配な場合はエコーやCTを撮ってみておけば、ほぼわかります。
あるいは、今後定期検診が必要かどうかわかりますので、
心配されるならぜひ相談して戴くのが良いと思います。
日ごろの用心が非常に役に立つのです。
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特に大動脈解離の場合は、将来来るかもしれない。
その時はこうしようというものを、ご家族の間でも日ごろ相談しておくだけでもずいぶん違います。
いずれは遺伝子治療とかで大動脈の壁自体を治して、多分もう解離は起こらないでしょう、というくらいのレベルになると本当の治療なんですが。
まだすぐにそこまで行きませんので、とりあえずは、
早期予防体制というか警戒態勢は非常に役に立ちます。
注意さえしていれば、だいたい間に合うように思っています。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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