インドのバルブ(弁膜症)サミットへ行って来ました

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寒い日が続きますが皆さんお元気でしょうか

この寒さの中でまことに申し訳ないのですが、私は先週末、インドのバルブサミット(弁膜症サミット)での講演のため温かいニューデリーまで行って参りました。

かつては弁膜症では欧米が先端を行っていたのですが、近年はアジアの健闘が少しずつ見えるようになりました。アジア諸国の経済力の伸展を背景にして、医学・医療の国際交流が盛んになり、アジアでも優れた心臓外科を行う基盤が整備されつつあるからと思います。

プログラムやポスターの表紙です せっかく会長のAshok Omer先生にお誘いいただいたので、今後の交流発展も考えて参加いたしました。今回のブログも専門的ですみません。一般読者には軽く流し読みして、新たな進歩が生まれつつあることだけ知っていただければ幸いです。まだまだ治せない心臓病のため涙を飲むことがある現状で、着実な進歩がなされていることを知って下さい。

インドは初めてなのですが、ニューデリー国際空港に降り立ってその立派さに感心、さすがは最近発展著しいインドと思ったのもつかの間、広い空港内の遠景がかすんでいるのです。外へでてもやはり景色がかすんでおり、霧がでるような状況ではなさそうなので、やはりこれはスモッグ!さすが現代の高度成長国インドです。中国とよく似ています。しかしスズキの小型車がたくさん走っているのはエコのために立派と思いました。

ともあれおかげで次第にノドがかゆくなり、持病のアレルギー性鼻炎もなんとなく調子が悪くなる始末。

ホテルについてシャワーをあびて一段落。考えてみれば夜中の0時に空港について、ホテルに落ち着いたのが2時半、しかし空港にも街中にも人やクルマがあふれている、元気な国です。

さてその数時間後、1月15日土曜日から翌16日日曜日までの2日間、バルブサミットは行われました。

最近の低侵襲治療とくにTAVI(カテーテルで大動脈弁を入れる治療法です)に代表されるカテーテル弁に多くの時間がさかれるとともに、内科の優れた画像診断技術とくに心エコーの最先端や、心臓外科でしか救えないような患者さんの手術についての講演と討論も活発に行われました。全インドの会だけに、欧米やアジアからも多数の内科医や外科医が招かれ、国際シンポジウムの内容をもつものでした。

1日目の冒頭のシンポジウム1にはさすがにインドらしくリウマチ性弁膜症の最近の動向と治療の現況、そして新しい治療までが論じられました。リウマチ性弁膜症は古い病気と思われがちですが、アジアではまだまだ猛威をふるっており、先進国日本といえども、昔のリウマチ病変がもとになって年齢や動脈硬化的な変化が加わった複合病変が最近多いため、その的確な診断と治療が求められています。

シンポジウム2では感染性心内膜炎(略称IE)について、自然弁のそれから人工弁のそれまで、またより効果的な内科的治療や手術についてガイドラインとともに論じられました。現在でも重症のIEはてごわいものがあり、油断できません。その中でこうした議論は重要と思いました。

血行動態に関する基礎的なレクチャーのあと、シンポジウム3では症状の無い弁膜症朝から夕方まで画像に包まれて過ごした感があります
どうするかについてのセッションでした。症状は無い、しかしそのままにしておけば後で患者に大きな負担やリスクがかかることは弁膜症でもよく知られており、ガイドラインでも最近は病気によっては無症状でも手術を勧める方向にあり、タイムリーでした。

シンポジウム4では僧帽弁疾患、シンポジウム5では大動脈弁疾患の的確な病態把握と診断、とくに画像診断の最新の知見が紹介されました。なかでも圧格差の少ない、つまり心機能の悪い患者さんの大動脈弁狭窄症の危険性、予後の悪さ、そして病気の本質を見抜いて的確な治療をすることの重要性が論じられました。エキスパートの集まりとしてレベルの高さを感じました。

コーヒーブレイクをはさんでTAVIの現況がワシントンWashington大学のDean先生によって特別講演されました。年々進化するこの領域の姿が理解できました。この先生は内科医ですが内科教授と外科教授の両方を兼ねておられ、TAVIは常に複合チーム全体で行うことの重要性を説いておられました。カテーテル関係を何でも内科でやってしまうと、若い医師が外科に来なくなり、外科が崩壊すると内科も立ち往生してしまうと日頃から心配しているだけに、わが意を得たりと思いました。

引き続いてイギリスのSt Thomas病院(有名な心筋保護液のルーツです)のVinayak Bapat先生が経心尖部のTAVIの実際を紹介されました。そのあとのシンポジウムもTAVIのさまざまな側面を論じるもので、この領域の進歩の速さを物語るものでした。あとで外科医同士で今後の外科の貢献を論じ、それなりに盛り上がりました。

そのあとで開会のセレモニーとショーがあり、これが今回の出張での唯一の遊び時間となりました。滞在時間のうち寝る時間と食べる時間を除けば遊びはこの1時間だけというのは、インドも日本以上に勤勉な国になったのではと感じました。21世紀はインドと中国だという意見を思い出し、日本ものんびりしていると危ないと思いました。

二日目は朝から僧帽弁形成術のロボット手術がライブ中継され、そのあと、Eクリップというカテーテルでの簡易型弁形成の講演がシカゴ大学のFeldman先生によって行われました。

シンポジウム7では人工弁のさまざまな問題、血栓や感染などが論じられました。

シンポジウム8は僧帽弁閉鎖不全症のセッションでニューヨークのAasha Gopal先生が最新の3Dエコーを多用した、より正確で情報量の多い心エコーの講演をされました。外科手術では不肖私、米田正始が虚血性僧帽弁閉鎖不全症複雑弁形成術を実際の症例をもとにして解説しました。後尖のテザリングをともなう虚血性僧帽弁閉鎖不全症はこれまで形成が難しいと言われていましたが、それへの解決策ができたことを報告し、ありがたいコメントをいくつも戴きました。

さらに弁膜症に合併しがちな難治性心房細動とくに巨大左房例に対する心房縮小メイズ手術の実例を紹介し、使ってみたいというご意見やご質問を多数いただき、光栄に思いました。

それから先ほどのFeldman先生がカテーテルによる僧帽弁形成術を特別講演されました。主にEクリップによる簡略な形成のお話しでしたが、このデバイスは出来ては消えて行くカテーテルでの弁形成デバイスで生き残った珍しいもので、一部の患者さんにしか使えないとはいえ、うまく活用すれば治療成績の向上に役立つと思いました。

インドらしい美味なランチのあとでTAVIのライブがあり、さらにシンポジウム9では僧帽弁狭窄症、シンポジウム10では三尖弁閉鎖不全症が論じられました。僧帽弁狭窄症ではカテーテルによる弁切開が多く論じられ、症例を選べば役立つものと改めて思いました。ただカテーテルでの形成はかなり不十分であり、心房細動も治せず脳梗塞などの合併症も長期間には起こり得るため、カテーテルにこだわりすぎると外科手術なら長期間元気に暮らせるはずのものが、そうできないという結果に終わるケースも出てくる心配があり、やはり上記のように、総合チームで検討するのが良いと思いました。

そのあとでGopal先生による3Dエコーの特別講演と実例供覧があり、今後の治療・手術の成績向上に必ず役に立つと確信しました。

最後にFeldman先生がカテーテルによる僧帽弁置換術の歴史が紹介され、先人たちのたゆまぬ努力の跡に感心しました。しかし現在のテクノロジーおよび内科と外科の協力のもとでなら次第に実現の方向に進むと思いました。

二日間ぎっしりの内容で皆さんお疲れの様子でしたが、内容的にも盛況だったため、来年はより本格的にやりましょうということでお開きになりました。

2011年1月16日

米田正始 拝 (サミットが終わって、ホテルにてコーヒー休憩しながら)

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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Comments

  1. ある患者さん says

    私は昨年10月に大動脈弁置換術AVRをやって頂きました。米田先生の最初の診察で手術を決めたのですが、生体弁でしたので将来の再手術についてお尋ねした時、先生はすっとこのTAVIについて非常に前向きに説明して下さいました。先ずは当面の危険を回避しなければならない時でしたのでそれは誠に適切なご配慮でした。しかし患者にとっては真実を知ることが心が落ち着くことなのでその後の動向をこのように素早く公表して下さることに本当に感謝致します。その為にコーヒータイムを犠牲にしながら日夜頑張っておられる米田先生他チームのDRに暖かいエールを送ります。