第25回日本不整脈外科研究会を振り返り

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(今回の記事は医療者向けです。一般の皆様には軽く読み流し、心臓外科医の努力のみ知って頂ければ幸いです。逆に、一般の方々でも心房細動などの不整脈でお困りの方にはご参考になるかもしれません。心房細動はある種のがんにも匹敵するほど要注意の病気です。野球の長嶋さんやサッカーのオシムさんはじめ多数の方々が仕事を失ったり命を落としたりしておられます。きちんと治療や定期健診を受けましょう)

東京ディズニーランドの目の前で行われました この2月23日水曜日に日本不整脈外科研究会を開催させていただきました。日本心臓血管外科学会のサテライトセッションとして東京ディズニーランドの目の前にあるホテルで行いました。テーマは「不整脈治療、外科らしい貢献」でした。この研究会はすでに四半世紀も続いている立派な会で、WPW症候群の手術や心房細動へのラディアル手術、メイズ手術はじめ、日本が世界に誇る業績を多数もつ会でもあります。

代表世話人の新田隆先生(日本医大心臓血管外科)と協力し、プログラムを練りました。まず若い先生方の熱心な研究を2題ばかり発表していただきました。

順天堂大学の岩村泰先生らは天野篤先生のご指導のもと、心房細動に対するメイズ手術の術後年月を経て心房細動がぶり返す原因を研究されました。その結果、最大のファクターは手術前の左房のサイズでした。これは患者さんを治療するときの実感に近く、また手前味噌ながら私たちが心房縮小メイズ手術を開発した経緯と共通点が多いため納得しました。

また太田西ノ内病院の丹治雅博先生らはメイズ手術の成績向上のためのさまざまな工夫を発表されました。詳細は省きますがこうした工夫の着実な積み重ねが大きな改良へとつながると思いました。

ついで不肖・米田正始が提言ということで「心嚢スコープを用いた低侵襲オフポンプ・完全メイズ手術を日本で」という講演をいたしました。この方法はスロベニアの畏友Borut Gersak教授がぜひ日本で紹介してほしいというご希望を受けて、この機会に不整脈外科エキスパートが集うこの研究会でご紹介することになったものです。

この方法はおへその少し頭側に小さい皮膚切開を入れ、腹腔鏡の方法で横隔膜にも小さなスリットをあけて、心嚢内にスコープを入れて、心臓の背中側にある左房の各部位を心臓の外側からアブレーションつまり焼灼するものです。短時間で完了し、合併症も起こりにくい、患者さんにやさしい方法です。心臓の外側から焼灼しにくいところが3か所あり、そこは内科のカテーテルでアブレーションしていただき、そのまま完全評価して治療を終える、ハイブリッド治療です。そのため効果はかなりあります。この方法でこれまで治せなかった心房細動単独のケースが比較的短時間で治せるようになるでしょう。ハートセンターグループでも不整脈内科のご賛同をいただいたため、今後日本でこれが使えるよう、努力したい旨、お話ししました。

そのあと、第二部「How I Do It」セッションを新田隆先生と私、米田正始の司会で行いました。技術の習得こそ若い熱心な先生方の望みであることを考えてのセッションでした。

まず都立多摩総合医療センターの大塚俊哉先生がミックス手術(MICS、小切開低侵襲手術)でのメイズ手術を解説されました。両側のミニ開胸が必要で、けっこう名人芸が必要な大きな手術と感じましたが、エキスパートならではの優れた治療でした。

ついで日本医大の石井庸介先生が房室弁輪部の処理法を講演されました。房室弁輪部には冠動脈、冠静脈、冠静脈洞、僧帽弁の根本などがあり十分焼灼しづらい傾向があり、そのため不整脈の発生につながる可能性があります。そこでこの部を十分に焼灼する方法を紹介されました。私個人は新田先生からこの方法を聴いていたため、自分の手術にすでに応用していますが、こうした研究、知見の積み重ねは大きな進歩につながると思いました。

そこで私、米田正始が巨大心房例に対する心房縮小メイズ手術のやり方をご紹介しました。2005年のアメリカ心臓病学会で発表してすでに6年、第一例目から7年以上たちますのでその間の細かい改良点を交えてお話ししました。普通では治せない心房細動たとえば巨大左房・右房や20-30年以上の心房細動などがかなり治るため、多くの良いご質問やコメントいただき、うれしく思いました。こんど使ってみたいとおっしゃる先生もおられ、ご協力を約束しました。

最後に日本医大の坂本俊一郎先生がガングリオンのアブレーションの方法を紹介されました。私も以前から検討していた方法ですが、メイズ手術のさらなる成績向上にぜひ使ってみたく思いました。

以上の内容で多数のエキスパートの先生方がご参加下さり、熱心なディスカッションが続き、お世話させて頂いたものとして心から嬉しく、感謝申し上げます。心臓血管外科の若い先生らがこれから張り切って仕事に打ち込める礎のひとつにもしなればうれしいことです。

来年は国立循環器病研究センターの小林順二郎先生にお世話いただくことになりました。最後になりましたが、多大なご支援とご指導を頂いた新田隆先生と日本医大の皆様、心臓血管外科学会長の重松宏先生、名古屋ハートセンターの北村英樹先生らに深謝申し上げます。

2011年2月23日

米田正始 拝

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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