大動脈弁閉鎖不全症の治療ガイドライン―症状が軽いのに状態悪化する場合も

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アメリカACCとAHA学会のガイドラインが2014年に改訂されました。

これまでよりさらに詳しく、臨床現場の実感に近いものになりました。

以下にそれをご紹介します。

2014AHA-ACC_GL AR

原本は英語ですが、一般の方々にわかりづらそうなところは日本語訳にしました。

今回の改訂の特徴は以下のようなところでしょうか。

まずARを高度なものと高度ではなくても進行性のものにわけてわかりやすく論じています。

高度なARで症状があれば手術になるのは当然としても、症状がなくても左室が障害されている場合やリスクが高くない場合には心臓手術が適応になり得ることも示されました。

ARが進行性なら他の心臓手術と一緒にAVRすることもクラスIIaとして認められました。以前のガイドラインでは左室拡張末期径75mmまで手術適応にならなかったのはちょっと待ちすぎと思っていましたが、今回は65mmで検討対象となり現実に即した形になって来ています。

心エコーのより詳細なデータが重症度の判定に使われるようになったのもエコーの貢献が認められたものとして評価できるでしょう。

ここでクラスIは手術が必要、クラスIIaは手術する意義がある、クラスIIbは手術を考慮しても良いことがある、クラスIIIは手術にメリットがない、あるいは有害なことがある、という意味です。

なおご参考までに過去のガイドライン解説を以下に記載します。


******過去のガイドライン記事 ******


重症の大動脈弁閉鎖不全症(AR)の治療ガイドライン抜粋(アメリカACCとAHA学会2006)

手術(弁置換)が勧められるのは:

■自覚症状があるとき


■自覚症状がなくても運動負荷テストで症状がでるとき


■自覚症状がなくても左室駆出率が50%未満になったとき


■症状がなく駆出率が50%以上でも左室が大きいとき(LVDd>75mm、LVDs>55mm)

 

などの場合です。それ以外の状態でも慎重なフォロー(経過観察)が勧められています。

大動脈弁閉鎖不全症も突然死などの緊急事態が起こることがあります。

 

なお日本のガイドライン(日本循環器学会)はこちら(12ページ)にあります。

共通点が多いですがよりきめ細かくなっています。以下にそのガイドラインを引用します

なお大動脈弁閉鎖不全症の手術は比較的シンプルなものが多いため、

手術するほうが安全で長生きできることが多いのです。

 


表28 大動脈弁閉鎖不全症に対する手術の推奨


クラスⅠ
(著者註:有効性が証明済み)

1 胸痛や心不全症状のある患者(但し,LVEF >25%)

2 冠動脈疾患,上行大動脈疾患または他の弁膜症の手
術が必要な患者

3 感染性心内膜炎,大動脈解離,外傷などによる急性
AR

4 無症状あるいは症状が軽微の患者で左室機能障害
(LVEF 25 ~49%)があり,高度の左室拡大を示す


クラスⅡa
(著者註:有効である可能性が高い)

無症状あるいは症状が軽微の患者で

1 左室機能障害(LVEF 25 ~49%)があり,中等度の
左室拡大を示す

2 左室機能正常(LVEF≧50%)であるが,高度の左
室拡大を示す

3 左室機能正常(LVEF≧50%)であるが,定期的な
経過観察で進行的に,収縮機能の低下/中等度以上
の左室拡大/運動耐容能の低下を認める


クラスⅡb
(著者註:有効性がそれほど確立されていない)

1 左室機能正常(LVEF>50%)であるが,軽度以下

の左室拡大を示す

2 高度の左室機能障害(LVEF <25%)のある患者

クラスⅢ
(著者註:有用でなく有害)

1 全く無症状で,かつ左室機能も正常で左室拡大も有

意でない

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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