米国のACC学会とAHA学会の合同ガイドラインが2014年に改訂されました。
その概要を以下に記載します。
的確な適応とタイミングで患者さんの予後がさらに改善することが期待されます。
このガイドラインの原文は英語で、一般の方々にわかりづらそうなところは日本語訳いたしました。
症状がある、高度のTRが手術適応になりやすいのはわかりやすいところですが、高度でないTRでも左心系弁手術のときに三尖弁輪拡張が著明ならやる意義があるというのを知らない方が多いようです。患者さんのためにこうしたことをガイドラインが明記したのは素晴らしいと思います。
なお以前のガイドラインと解説をご参考のため以下に示します
****** 以前のガイドライン ******
三尖弁閉鎖不全症(TR)は油断すると命にかかわる重い病気です。
手遅れのないように、また不要な手術や治療も避けられるように、
努力がなされています。
私たちはガイドラインやEBM(証拠にもとづく医学医療)を基準にして手術や治療にあたっています。
三尖弁閉鎖不全症については三尖弁輪形成術つまりリング(右図)をつけるだけでは治せないケースに対して
僧帽弁 形成術で培った人工腱索の技術をもちいて三尖弁置換術を避けて
形成術を完遂することがあるため将来のガイドライン発展にも貢献できればと考えています。
以下にアメリカの心臓関係でのトップ学会であるAHAとACCの三尖弁閉鎖不全症などへのガイドラインを引用します。
正確を期するために原文と著者の邦訳を併記します。
(JACC Vol. 48, No. 3, 2006 Bonow et al. e71 August 1, 2006:e1–148)
Class I (著者註:有効性が証明済み)
Tricuspid valve repair is beneficial for severe TR in
patients with MV disease requiring MV surgery.
(Level of Evidence: B)
手術が必要な僧帽弁膜症をもつ患者で高度なTRをもつ方に三尖弁形成術は有用です
Class IIa (著者註:有効である可能性が高い)
1. Tricuspid valve replacement or annuloplasty is reasonable
for severe primary TR when symptomatic.
(Level of Evidence: C)
症状ある高度TRに対して三尖弁形成術や三尖弁置換術は理にかなっています
2. Tricuspid valve replacement is reasonable for severe
TR secondary to diseased/abnormal tricuspid valve
leaflets not amenable to annuloplasty or repair. (Level
of Evidence: C)
三尖弁輪形成術で治せないような高度TRに対して三尖弁置換術は理にかなっています
Class IIb (著者註:有効性がそれほど確立されていない)
Tricuspid annuloplasty may be considered for less
than severe TR in patients undergoing MV surgery
when there is pulmonary hypertension or tricuspid
annular dilatation. (Level of Evidence: C)
僧帽弁手術を受ける患者さんで肺高血圧症や三尖弁輪拡張があるときは、TRが高度でなくても三尖弁輪形成術を考慮できることがあります
Class III (著者註:有用でなく有害になる恐れあり)
1. Tricuspid valve replacement or annuloplasty is not
indicated in asymptomatic patients with TR whose
pulmonary artery systolic pressure is less than 60 mm
Hg in the presence of a normal MV. (Level of
Evidence: C)
僧帽弁が正常で肺動脈の収縮期圧が60mmHg未満で、症状がないTRの患者さんには三尖弁置換術や三尖弁輪形成術は勧められません
2. Tricuspid valve replacement or annuloplasty is not
indicated in patients with mild primary TR. (Level of
Evidence: C)
軽度の原発性TRでは三尖弁置換術や三尖弁輪形成術は勧められません
以下に日本循環器学会の三尖弁閉鎖不全症のガイドライン(2006年、合同研究班報告)を引用します。基本コンセプトは大変近いものと思います。元ページもご参照ください(第14ページです)。
表30 三尖弁閉鎖不全症に対する手術の推奨
クラスⅠ (著者註:有効性が証明済み)
1 高度TRで,僧帽弁との同時初回手術としての三尖
弁輪形成術
クラスⅡa (著者註:有効である可能性が高い)
1 高度TRで,弁輪形成が不可能であり,三尖弁置換
術が必要な場合
2 感染性心内膜炎によるTRで,大きな疣贅,治療困
難な感染・右心不全をともなう場合
3 中等度TRで,弁輪拡大,肺高血圧,右心不全をと
もなう場合
4 中等度TRで,僧帽弁との同時再手術としての三尖
弁輪形成術
クラスⅡb (著者註:有効性がそれほど確立されていない)
1 中等度TRで,弁輪形成が不可能であり三尖弁置換
術が必要な場合
2 軽度TRで,弁輪拡大,肺高血圧をともなう場合
クラスⅢ (著者註:有用でなく有害)
1 僧帽弁が正常で,肺高血圧も中等度(収縮期圧
60mmHg)以下の無症状のTR
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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