マルファン症候群の患者さんは結合組織が弱いため、
大動脈や弁がしばしば壊れます。
また同じ原因で目が強い近視になったり背骨が曲がったりすることがあり、
きちんとした予防や定期健診などによる早期発見、早期治療が大切です。
また日頃から勉強や相談をして病気の理解に努め、
次の患者さんも定期健診の中から、次第に大動脈の基部が拡張し、
ガイドラインを満たすサイズになったところで
十分な医学的準備と心の準備のもとに心臓手術を受けられ、
心配を解決し、妊娠出産などの人生の次のステップへのスタートとされました。
患者さんは34歳女性でマルファン症候群のため脊椎側彎をもっておられます。
大動脈基部が次第に拡張し直径50mmに達したこと、
さらにそのために大動脈閉鎖不全症が起こりつつある状態から
デービッド手術という患者さんご自身の大動脈弁を温存する大動脈基部再建手術をすることになりました。
最近結婚され、妊娠出産をご希望という事情もあり、
デービッド手術のあとなら大動脈解離などが起こりそうな部位もなく、
かつワーファリンも不要なため、
じっくり相談の上、このタイミングで手術することになりました。
手術では、体外循環・大動脈遮断下に上行大動脈を横切開し、
大動脈弁が3尖とも長期間使えるだけの質を持っていることを確認し
デービッド手術に適していることを確認しました
(手術写真は準備中です)。
まず大動脈弁輪のすぐ下に糸をかけ、
人工血管が弁輪をも守れるようにします。
人工血管に微調整の切れ込みを入れてから大動脈基部の外側へ落とし込みます。
サイズの調整を正確に行い弁の構造に無理がかからないようにします。
人工血管の内側で3つの交連部を適切な高さに吊り上げて、これを固定します。
そして弁のすぐ近くの大動脈組織を人工血管に隙間なく縫い付けて弁の再建は完成です。
水テストや心筋保護液注入テストで弁に漏れがないことを確認します。
必要があれば弁尖の形成を追加します。
ここで左ついで右の冠動脈入口部を人工血管に小穴をあけてそこへ縫い付けます。
冠動脈がねじれたり折れたりしないように工夫しています。
冠動脈入口部の吻合に漏れがないことを確認し、
人工血管を上行大動脈の遠位部と連結して操作は完成です。
心不全や不整脈もとくに無く、
術翌日には一般病棟へ戻られ、
心臓リハビリ(運動)ののち、術後 1週間あまりで元気に退院されました。
心臓手術からまる2年が経ちました。
お元気にしておられ、心臓も大動脈も安定しています。
今後も外来でフォローアップ・健康診断を行いつつ、
長期的な安全対策とくに脊椎の治療などを専門医と相談しながら検討しています。
大動脈の他の部位は現時点でまったくきれいなため、予防策もより効果が期待できます。
大動脈基部拡張症の患者さんとくにマルファン症候群や大動脈二尖弁の患者さんは
大動脈壁が構造的に弱いため、破裂や解離などへの注意や対策が必要です。
逆に、こうしたことを注意しておけば安全性は大きく高 まります。
この患者さんの場合はデービッド手術によって妊娠出産の安全性が高くなり、
より安心した人生の設計が立てられるようになりました。
このデービッド手術は大動脈基部がもっと拡張し、
大動脈弁閉鎖不全症(つまり弁の逆流)が強くなってからでも可能な手術です。
しかし高度の逆流になってあまり弁が壊れてから形成するよりは
まだ比較的良い状態が保たれているうちに弁を守る手術をするほうが長期的に有利です。
そうしたことは患者さんやご家族の方々とのきめ細かい相談によって解決できるのです。
このデービッド手術と同様のことができます。
ただしその場合、妊娠出産によって生体弁が急速に劣化し、
数年後に再手術となることもあり、
この点でデービッド手術は有利です。
自然の弁はカルシウムなどを自ら掃除するちからがあるからです。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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