さまざまな病気の治療を全国どこにいる人にも、高いレベルで正しく、かつ最適なタイミングで提供できれば、素晴らしいことと思います。読者の皆様も同感と思います。
心臓病、心臓血管病の場合は日本では日本循環器学会というトップの学会が代表的な心臓病の治療や診断のためのガイドラインを作成しています。
アメリカ(AHAやACC)やヨーロッパ(ESC)にも同様のものがあり、
いずれもその国の心臓病・循環器疾患を代表する学会が、
多数の専門家が時間をかけて十分検討し、その時代の正しい医療の目安になる、立派なものです。
私自身、このガイドライン作成や評価にご指名にて委員として参加させて頂き、
これまで何度もご協力させていただいて参りました。
直接お目にかかる患者さんたちはもちろん、
お会いする機会もない全国のさまざまな心臓病患者さんにお役に立てる、光栄な仕事と思い、ご協力して来ました。
多数の専門家だけでなく、それ以外の専門家にも数名以上参加いただき、
時間をかけてダブルチェック、トリプルチェックして、内容的に万全を期するようにしてあります。
たとえば弁膜症の治療についても立派なガイドラインがあります(事例1、事例2)。
これを念頭において治療方針を立てれば、的確かつ適切な、安全な治療ができます。
心臓手術を例にとっても、早すぎる手術つまり不急や不要な手術を避けることができますし、
逆に手遅れを回避することもできます。
世の中の医師には、循環器を標ぼうしている医師といえども、
このガイドラインを知らない、あるいは多少は知っていてもまじめに順守しない向きがあり、困ったことです。
そのために患者さんが的確な治療とくに心臓手術のタイミングを失い、突然死あるいはそれに近い状態で命を落とすというケースが後を絶ちません。
患者さんが適切なタイミングで手術を受けて、もしも不幸にして亡くなった場合、
それを心臓外科医の責任とするのは当然のことと思います。
そうした場合、心臓外科医は甘んじてそのご批判を戴き、
謝罪だけでなくしっかりとしたご説明をし、また改善策を示す義務があると思います。
その一方、患者さんを納得させられず、心臓外科医と相談する機会も得られず、
心臓手術の恩恵を受けることなく患者さんが合併症などでお亡くなりになるとき、
それは内科医の責任なのです。
決して患者さんや病気の責任ではありません。
こうした医師としての基本がわかっていない、そういう方がまだ世の中におられると聞きます。残念なことです。
患者さんはまさにさまざまな悩みや人生を抱えた、生きたひとですから、
ガイドラインがそのまま適応しづらいこともあります。
しかしそれを十分に、わかりやすく説明し、
それこそ池上彰さんレベルのわかりやすさでお話し、考える材料を提供するのがプロの務めというものです。
またガイドラインを活かすためにさまざまな工夫をして患者さんから話や情報を聴きだすことも臨床医の基本です。
また専門家によっては自分の関心のないことに力を入れないというケースが少なからず見られます。
こうしたことは医療以外の、世間一般的にはある程度は個人の自由として認められていますが、病院や医療の世界では危険なことです。
つまり医療はまだまだ他の産業のような品質管理や均一化ができていない領域なのです。
これをひとは「医者選びも寿命のうち」と言われます。
残念ながら現在もそれは本当です。
患者さんや地域医療の先生方にあっては、病気の治療とくに心臓手術などの大きな治療を考えるとき、ガイドラインとともに複数の専門家のご意見を聴かれることをお勧めします。
同じ科でも複数の病院で意見を聴いてみる、
あるいは同じ病院でも内科と外科の意見を聴いてみる、
そうすることで、幅広い視野や十分な情報が得られ、安全性が確保されやすくなるでしょう。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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