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◾️ハートポートとは
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ハートポートとは小切開低侵襲手術(略称ミックス手術)
つまり皮膚を小さく切開し、胸骨を切らずに行う、
患者さんにやさしい心臓手術に使う道具や方法のことです。
このハートポートをもちいて行う手術をポートアクセスと呼びます。
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◾️ハートポートの第一号
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ハートポートは1990年前半にアメリカ・カリフォルニアのスタンフォード大学で開発されました。
開発者はJohn Stevensという優秀な若手心臓外科医でした。
有名なDr. Norman Shumway(シャムウェイ)先生の指揮のもと、
スタンフォードグループが力を合わせて開発した先進技術でした。
ハートポートの原法では、
下肢の付け根にある大腿動脈から血液を送り、
そのすぐ隣にある大腿静脈から心臓までいれた脱血管で血液を抜いて人工心肺に送ります。
これはこれまでの大腿動静脈使用の体外循環と同じです。
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さらに大動脈へバルン(風船)を入れて上行大動脈の内側からバルンで大動脈を遮断し
(これをエンドクランプと呼びます、エンドは内側という意味です)、
そのバルンの軸の部分の管から心臓を止め、かつ保護する液体を入れて通常と同じだけ安全な心停止を得ます。
さらに別の管を内頸静脈から右房経由で冠静脈洞へ入れて逆行性冠灌流を行います。
上図はハートポート社のオリジナルの解説図です。
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◾️ハートポートからミックスへ
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心臓への操作は小さい右開胸した穴(ポートと呼びます)から専用の柄の長い手術器具をもちいて行います(右図)。
こうした当時としては画期的な、かつ徹底して心血管の内側から多くの手術操作を行うのがハートポートでした。
当時からこの方法は多くの関心を呼びましたが、
高齢者や動脈硬化の強い患者さんがすでに多数おられた時代ですので、
脳梗塞や大動脈解離などが起こりやすいという心配があり、
必ずしも大多数の心臓外科医の賛同は得られませんでした。
しかしその低侵襲性つまり患者さんにやさしく、早い回復や社会復帰などのメリットは一部で評価を受け、
さまざまな改良を受けつつ今日の姿になって行ったのです。
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たとえば脳梗塞などが起こりやすく、バルンの位置がずれると大変困るエンドクランプ(風船を大動脈の中で膨らませて内側から遮断します)法に代えて、
大動脈を外側から遮断するチットウッドクランプ法(上写真の右上の道具)などが開発されました。
ハートポートをもちいたポートアクセス法での僧帽弁形成術の標準的な手術事例をしめします。また視野出しがちょっと難しい事例や、やや複雑な弁形成の事例もご参照ください。
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◾️ロボット手術へ?
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またこのハートポートにロボットを組み合わせた方法が次第に開発されて行きました。
第一世代ともいえるゼウスというロボットもある程度試用されましたが、
性能が悪く、かなりの熟練が必要なため、
次第に使い勝手のよいダビンチというロボットに人気が集まるようになりました。
写真右は現在のダビンチ・ロボットです。
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◾️今後の流れは?
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ロボットについてもその発展性に期待が集まるとともに、
サイズも大きく手間がかかりコストがかさみ、
それは患者さんの重い負担にもつながるという欠点から議論が続いていますが、
次世代のロボットではその欠点はある程度是正されるのではないかという期待があります。
間も無くダビンチ・ロボットの特許が切れて内外のいくつかの会社が新たなロボットを開発し、展開があるかも知れません。
日本でも最近保険適用になりましたが、まだまだ患者さんの自己負担が大きく、
ロボットを使わないポートアクセスが現実には有用という考えもあります。
これなら通常の心臓手術と同様、
治療費のほとんどが保険から出され、患者さんの追加負担はありません。
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ともあれハートポートは開発されて20年経ちますが、
さまざまな改良によって次第にそのミックス手術(MICS、ポートアクセス)としての地位を定着させつつあるように感じられます。
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参考ページのIndex:
とくにポートアクセス手術とは
その位置づけは
それが前向きに安全な場合
美しいLSH法とは?
かかる費用は?
危険なの?
術後の痛み軽減について
社会復帰が早いわけは?
心臓手術と美容について
胸骨「下部」部分切開法とは
ビデオ ポートアクセス法による僧帽弁形成術
僧帽弁
ミックスによる弁形成術
同、弁置換術
同、メイズ手術
ポートアクセスによる弁形成術
大動脈弁
ミックスによる弁置換術
同、弁形成術
ポートによる弁置換術
三尖弁
ミックス法による弁形成術
患者さんやご家族からのお便り
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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