弁膜症に対して弁形成術ができるか、弁置換術になってしまうかはおおごとです。
というのは若いゆえに、人工弁ではさまざまな問題がおこり得るからです。
たとえば生体弁では60代の患者さんの場合ほど長持ちしませんし、
機械弁ではワーファリンという血栓予防の薬が一生涯必要なため、
毎月病院で血液検査を受けるという不便さを一生抱えることになってしまいます。
弁形成がばっちり決まればワーファリン不要で、かつ長持ちしやすいのです。
この弁形成術のメリットは僧帽弁形成術でまず明らかになりましたが、
大動脈弁形成術でも同様になりつつあります。
健康診断で重い大動脈弁閉鎖不全症
(つまり弁の逆流です)
が診断され、精密検査の結果、手術を勧められました。
左図は手術前の心エコー・ドップラー画像です。
高度の弁逆流が見られます。
右図は3次元エコーで二尖弁とその性状がわかります。
それから患者さんはみずから勉強し、私のホームページを見つけてハートセンターへ来院されました。
大動脈弁は二尖弁で、高度の逆流が発生し、
心臓に負担がかかってきていました。
ご本人とご両親と何度か相談した結果、大動脈弁形成術でがんばろうということになりました。
手術では、まず上行大動脈が細くなっていました。
心臓を眠らせてから大動脈を開けました。
大動脈弁は無冠尖と左冠尖が一体化した二尖弁で、
無冠尖+左冠尖が落ち込んだために逆流が発生していました(左図)。
そこでこの落ち込んでいる弁尖の中央部を三角切除し、
肥厚した弁組織を活用して再建しました。
大動脈弁はほんらい、かみ合わせが少なく、
かつ高い圧がかかるため形成は難しいという一面があります。
そこでそれらを考慮し、組織の耐久性や無 理なストレスがかからないデザインを意識して形成しました
(左図は弁形成のできあがり)。
大動脈基部そのものが小さいため、弁輪縫縮(形成)などは行わず、
また生体弁を入れると不十分なサイズのものしか入らない状況のため、
一段と弁形成術がこのましいと考えられました
(右図、弁形成のおかげで十分な開口が確保されました)。
弁のかみ合わせをさらに改善するためもあって、
上行大動脈を調整・縫縮しながら閉鎖しました。
心臓は活発に動きを再開し、体外循環を容易に離脱しました。
(左図)、
弁のかみ合わせや形もきれいで(右図)、
まずまず良好な結果でした。
弁形成のおかげで弁のサイズでも十分なものが確保されました。
術後経過も順調で、術後9日目に元気に退院されました。
あれから3年経ちますが、お元気で定期健診に外来へ来られます。
心臓ホルモンであるProBNPは35と正常で、大動脈弁、左室も良好です。左室径LVDdは48.6mm、駆出率66%と正常です。
もちろんワーファリンなしです。
ご両親も喜んで下さり、患者さんらと定期健診でお会いするのが楽しみです。
大動脈弁形成術は若い患者さんが心不全や病院通いの重圧から解放されて
学生らしい青春時代を送るために役立つことでしょう。
ちなみにこの患者さんのお母様からの感謝状を頂いたので
お便りのコーナーにアップしました。ご参考になれば幸いです。
自己心膜を活用して弁のかみ合わせや安定度を向上させたり、
ミックス手術(MICS、たとえばポートアクセス法)(図の真ん中)を適宜もちいて、
より小さい創で早い社会復帰を促すなどを行っています。
図の左は通常の心臓手術の皮膚切開、右は正中からのMICSでの皮膚切開です。
今後さらに発展する領域と思います。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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