昨日2011年9月17日に東京で第一回ハートバルブカンファランス(Heart Valve Conferenceつまり弁膜症の研究会です)
(代表:川副浩平・聖路加国際病院心臓センター長)
が盛会裏に行われました。
ご参加くださった多くの先生方や協賛のメーカーの方々に幹事のひとりとして御礼申し上げます。
(本記事はやや専門的で一般の方にはわかりにくいかと思います。
私たち弁膜症専門家の熱い空気だけ知って頂ければ幸甚です)
川副先生が発起人となり、
内科・外科の弁膜症の実力派の先生方が集まり、
これまでの学会では十分できない患者目線の実際的議論と考察の場をつくるため、
できたものです。
幹事は外科系では榊原記念病院の加瀬川均、
日本医大の新田隆、慈恵医大の橋本和弘の諸先生と
不肖私、米田正始、
そして内科系では産業医大の尾辻豊、大阪大学の中谷敏の先生方です。
内科・外科の熱い論客ぞろいで、内容豊かな、
ただちに患者さんに役立つ情報交換が期待されていました。
第一回のカンファランスの内容を顧みますとその目的は十分に達成できたように思います。
(写真はプログラムの表紙です)
実際の症例をもとに十分な議論を尽くすというポリシーから
4症例をめぐって丸一日にぎやかに勉強しました。
前日の世話人会と打ち合わせ会のときからすでに熱い議論が多く、
本番の研究会でも予想どおりの力のはいりようでした。
まずmorning lectureとして中谷先生がとくに僧帽弁に力を入れて
手術中経食エコーの方法から意義特徴までを講演されました。
座長の野村実先生(東京女子医大麻酔科)からしっかりとコメントを頂き、
神戸大学の大北裕先生と慶応大学の四津良平先生がコメントというよりミニレクチャーをされました。
大北先生は大動脈弁の解説を、
四津先生はポートアクセスやミックス手術(MICS、小切開低侵襲手術)の観点からも解説されました。
経食エコーを誰がやるべきかというのは簡単なようでなかなか難しい問題で、
これも議論の的のひとつとなりました。
それからこのカンファランスの真骨頂であるCase Studyに移りました。
合計4例を4時間以上もかけてじっくりと議論しました。
新田先生がプレゼンされた拡張型心筋症+軽中度の大動脈弁狭窄症ASの症例はそのASの心負担の度合いの評価が難しく、
カンや経験で患者さんを治療せざるを得ない領域のひとつで、
今後さらに経験と研究を重ねる必要を感じました。
まずCRT両室ペーシングをしてどこまで心筋症の影響が大きいかを治療診断してから大動脈弁をどうするか考えるのが良いか、
その間にさらに心筋症が悪化することや手術リスクを考えて最初からCRTと大動脈弁置換を行うか、微妙でした。
しかし四津先生、新田先生、東京女子医大の谷本京美先生や天理よろづ相談所病院の泉千里先生はじめオーソリティの皆さんのお考えを聴けたことは収穫でした。
加瀬川先生が発表されたバーローBarlow病の僧帽弁閉鎖不全症MRでは形成の方法が多数あり、
どの場合にどうするのが一番良いか、考えさせられる症例でした。
長崎大学の江石清行先生が余剰な組織を適切に切除して弁を整える心臓手術を供覧し、
Barlow病では上手にやるならばこれが理にかなっているように思えました。
またBarlow病で組織に変性を起こしているのが実感できました。
聖路加国際病院の新沼広幸先生がBarlow病を概説されまとまりました。
個人的にはBarlow病の弁形成では弁組織が余っているためなるべく悪い組織はきれいに取り、
かつ将来の再発の原因となる病変は軽いものでも是正するようにしているため
大いに参考になりました。
川副先生は非定型的なIHSS(HOCM)の手術例を供覧され面白いディスカッションになりました。
私も力を入れている病気のひとつであるため、
いろいろコメントをつけてしまい、あとで失礼を反省したほどです。
しかし難しい心臓手術を最終的にきれいに良い状態でまとめられたのはさすがと思いました。
榊原記念病院の高山守正先生と順天堂大学の大門雅夫先生のミニレクチャーでよくまとまりました。
香川大学の堀井泰浩先生はサルコイドーシス心筋症に合併する僧帽弁閉鎖不全症の一例を提示されました。
産業医大の竹内先生と私が座長をさせて頂きました。
これも非定型的症例で、左室形成術と僧帽弁輪形成術で治されたのは立派でした。
同時に私自身も10年ほど前に同様の手術を行い、
いったん元気になられたものの、
また弁の後尖のテント化が何年か後に起こり弁置換で元気になられたという、苦い経験から辛口の討論をしてしまい、
あとで要求しすぎと反省してしまいました。
しかしこうした経験を皆でシェアする中でより優れた手術法を開発して行った経過から、
将来お役に立つ討論と位置付けて頂ければうれしいことです。
大阪医大の寺崎文生先生のサルコイド心のレビューは豊富な経験にうらづけられた優れたものでした。
症例の検討の間をぬって、お昼時に大動脈弁狭窄症の治療の新しい方向性について3つの観点から発表と討論がなされました。
池上総合病院の坂田芳人先生はPTAVつまりカテーテルによる大動脈弁形成を、
大阪大学の倉谷徹先生はTAVIつまりカテーテルで植え込む生体弁の話を、
そして榊原記念病院の高梨秀一郎先生は外科的大動脈置換術AVRの有用性を講演されました。
神戸大学の大北裕先生が座長で進んでいきましたが、同先生が所要のため神戸へもどるべく早退され、私が座長を引き継ぐ形で議論させていただきました。
侵襲ではPTAV、TAVI、AVRの順番で優れており、
治療の完成度の高さではAVR、TAVI、PTAVの順と考えられましたが、
今後のTAVIの展開によって治療戦略にも変化があるものと思いました。
また誰がTAVIを行うか、内科医か外科医かという議論のなかで、
やはりハートチームが内科外科麻酔科コメディカルをすべて含んだ形で行うのがベストというのが大方のご意見で、正当なものと感じました。
さらに、TAVIを行うハイブリッド手術室については、
手術室でカテ操作を行うほうがカテ室で手術操作を行うよりも安全性で勝ることをお示しし、
大方の賛同を戴きました。
それやこれやで丸一日、よくこれほど勉強ばかりやれるものだと感心するような充実したハートバルブカンファランスを無事終えて、
懇親会で楽しい時間を皆さん過ごされたようです。
私は他の公用のため懇親会は残念ながら失礼しましたが。
これまでにない新機軸の、内容ある研究会を立ち上げられた川副先生に感謝しつつ、
来年の研究会をさらに内容充実した盛会としたいと感じました。皆様ご苦労様でした。
2011年9月18日記
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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