この9月23日から25日まで神戸で開催されました。
会長は川崎医科大学循環器科教授の吉田清先生(写真)で、
臨床や臨床研究にちからを入れて来られた吉田先生のスタンスがよく反映された、
患者さんのための心臓病学を意識した内容でした。
メインテーマ「臨床心臓病学を極める」は
まさに同先生のライフワークそのもので充実感あふれる学術集会になったと思います。
私自身が直接関与させて頂いたセッションの印象記を以下にお書きします。
まずYIAつまり若い先生方の将来性ある研究のコンテストでは
臨床研究から基礎研究まで優れた、興味深い研究が多く、
予選の段階から優劣をつけるのが申し訳ない気持ちになるような力作ぞろいでした。
しかしコンテストですから客観的に点数をつけ、
4人の若手が最終選考に残られました。
心房細動に対するカテーテルアブレーション治療の新たな方法や、
iPS細胞から誘導した心筋細胞がQT延長症候群の治療に役立つことを示唆したもの、
あるいは周産期心筋症の発生と高血圧の関連を示した全国レベルの臨床研究、
そして薬剤溶出ステントの再狭窄の早期発見に血漿BNPが役立つことを示した研究などがあり、
いずれも優れた内容をもっていました。
最終的にアブレーションの研究が選ばれました。
どの方々にも益々の進展を期待したく思いました。
一日目午後のパネルディスカッション2「最新の弁膜症治療:外科治療からカテーテル治療まで」では
優れた演題に交じって私たちと川崎医大循環器内科の先生方(尾長谷先生、斉藤顕先生、吉田清先生ら)との共同研究も発表されました。
同科の尾長谷喜久子先生が機能性僧帽弁閉鎖不全症に対する両弁尖形成法(Bileaflet Optimization法)を3次元エコーや手術ビデオを含めて発表され、
良い反響を戴きました。
このパネルディスカッションでは
産業医大の竹内正明先生が3D経食エコーの有用性を弁膜症からTAVI(経カテーテル大動脈弁置換術)への応用まで含めて講演されました。
心エコーもここまで進化したと感慨深いものがありました。
また鹿児島大学の窪田佳代子先生は
虚血性僧帽弁閉鎖不全症のテザリングとくに拡張期のそれが機能性僧帽弁狭窄を発生させることを示され、
同チームのこれまでのご研究をもとにして上記のBileaflet Optimizationを開発し
問題の解決に取り組んできた私たちにとっても貴重なご発表でした。
北海道大学の松居喜郎先生は虚血性MRに対する乳頭筋接合術や左室形成術の有効性を発表されました。
また乳頭筋の吊り上げに対しても必要に応じて使用しておられ、
同じ方向性で努力しておられることをうれしく思いました。
虚血性MRは弁膜症の顔をした左室の病気であるため、
私たちも賛同できることが多く、力を頂いたように思います。
榊原記念病院の加瀬川均先生は心膜で作成したステントレス弁の臨床試験例を報告されました。
私(米田正始)もこの僧帽弁ステントレス弁をトロント時代に研究していたため、
大変興味深く拝聴し、今後共同研究に参加させて頂くことになりそうです。
将来的には弁形成術とならぶ弁膜症手術の軸になるよう努めたいものです。
最後に大阪大学の倉谷徹先生がハイリスクの大動脈弁狭窄症に対するTAVIの臨床試験の結果を報告され、
今後有望な治療法であることを示されました。
このように弁膜症治療の新たな展開が見られるだけでなく、
内科と外科あるいは大学や病院が協力してより進化した弁膜症治療を求める素晴らしいパネルだったと思います。
その日の午後に教育講演として、私、米田正始が「虚血性僧帽弁閉鎖不全症」のお話をさせて頂きました。
広義の弁膜症のなかでもっとも複雑で不思議なこの病気を、
シルクロードで旅人を迷わせたロプノール湖にたとえてお話しさせていただきました。
そして1960年代のBurch先生の乳頭筋不全から始まり、
1980年代からは心エコーが病態解明に大きな貢献をし、
今日の進んだ僧帽弁形成術に至った経過をお話ししました。
さらに現在残された課題のひとつである後尖のテザリングに対して
私たちが川崎医大の先生方と共同開発した両弁尖形成術(Bileaflet Optimization)を解説し、
今後さらに進めていくべき方向性にまで言及させていただきました。
弁膜症といってもこの病気は心筋症・心不全という左心室の病気でもあり、
この解明と解決には内科、外科、はじめ集学的なチーム医療が必要であることもお話ししました。
講演のあと、多くの先生方から前向きのご質問やコメントをいただき、
そのあと別のところでも講演を聴かせてもらったよと激励のお言葉を頂戴し、
光栄に思った一日でした。
一日目夜の会長主催ディナーでは多くの先生方と懇談できうれしいことでした。
私のテーブルは外科の先生がほとんどで、仲間内で好きなことを雑談できました。
そのときにStanford大学のPeter Fitzgerald先生と久しぶりにお話することができ、
大学病院から民間専門病院へ移って具体的にどういう進展があったか質問いただき、
ここまで実現できたことをお話しし、喜んで頂けたのは光栄なことでした。
優れたエコーが外科医を育てることをお話ししますとガッツポーズを戴きました。
川崎医大の大倉先生と英語のきれいな女医さん(お名前わからずすみません)の軽快な司会が光っていました。
翌日の朝いちばんには若い先生方がこれから大きく展開されることを願ったキャリアパスのシンポジウムが行われ、
和歌山医大の赤坂教授と私、米田正始で座長をさせて頂きました。
鹿児島大学の尾辻豊先生、府中恵仁会病院の本江純子先生、スタンフォード大学の本多康浩先生、そして湘南鎌倉総合病院の斉藤滋先生という、
錚々たる、しかも多様な顔ぶれでした。
個々のの先生方はそれぞれユニークな道を歩んでこられたとも言えますが、
困難に直面しても夢を失わず、努力や工夫を重ねて問題を解決し、
人生を切り拓いていかれたことは見事に共通していました。
座長の特権でちょっとつまらぬコメントをさせて頂きました。
それは、私の研修医時代にある先輩から「どんなところでも育つひとは育つよ」という一言でした。
これは教える立場の人が言ってはいけないことと思いますが、
学ぶ立場の人にはぜひ知っておいて戴きたいことで、
このシンポジウムの4名の先生方はおそらくどんな環境でも展開されるだけの夢や情熱、信念を持っておられたからこそ今日の姿がある、
ということをお伝えしたくコメント致しました。
この学会ではその他にも多数の優れたセッションぞろいでした。
たとえばDES(薬剤溶出ステント)時代の冠動脈生理やアジアエコー、
冠動脈CT・MRI・RIのセッション、
大阪大学の小室一成先生と医仁会武田総合病院の河合忠一先生らによる循環器タイムトラベルフォーラム、
心房細動への最新アプローチ、
左主幹部病変に対する治療はPCIか外科治療かのセッション、
心臓移植の現状、
そしてもちろん吉田清先生の会長講演など山のような内容でした。
立派な機会を下さった吉田先生はじめ川崎医大の先生方と日本心臓病学会の先生方に厚く御礼申し上げます。
ありがとうございました。
2011年9月25日記
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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