上行大動脈瘤――治せる病気です、油断めされぬよう【2020年最新版】

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AscAoAneu最終更新日 2020年2月22日

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■手術が必要となるのは、、、

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上行大動脈瘤は

上行大動脈が拡張つまり大きく膨らんで、

破裂したり解離(壁が内外に裂けること)すると突然死する病気です。

瘤のでき方に、こぶができる真性瘤と最初から壁が裂ける解離性などがありますが、

ここでは真性瘤について解説します。

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上行大動脈は何らかの原因で拡張しこぶになります。

正常径の1.5倍の直径になると瘤と呼ばれるため、

その直径が45mmになればそれは瘤と言えましょう。

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上行大動脈瘤が発生する理由としてはさまざまなものがあります。

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解離は別項で解説するとして、

動脈硬化によるもの、

大動脈二尖弁(にせんべん)にともなうもの、

大動脈炎・高安病・ベーチェット病・梅毒などの炎症によるもの、

マルファン症候群などの結合組織疾患に由来するもの、

先天性、その他があります。

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Aneurysm rupture上行大動脈瘤の直径が5cmを超えると破裂する恐れがでてきて、注意が必要です。

通常その直径が6cmになれば心臓血管手術が必要ですが、

その拡張スピードや背景の疾患によっては5cm前後でもオペが必要になることがあります。

瘤の形がいびつで破れやすいときも同様です。

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■その診断は、、、

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037上行大動脈瘤の診断は胸部レントゲンやエコーである程度めどがつきますが、

それぞれ上行大動脈瘤の診断には死角があり完全な検査法ではありません。

CTスキャンが役立ちます。

造影剤なしでもかなりのところまで診断がつきますから、

まず単純CTで調べるのが良いでしょう。

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福島原発事故以来、CTスキャンが被ばく量の多い検査法として有名になりましたが、

私たちのところでは技師諸君の工夫によってその6分の1あるいはそれ以下に下げることができます。

それよって早期診断がより安心してできるようになりました。

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■上行大動脈瘤の手術は

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その部を人工血管で取り換える、いわゆる上行大動脈置換術が基本です。

しかしその患者さんの状態に応じてさまざまな工夫ができます。

たとえば高齢者や全身状態の悪い方、あるいはエホバの証人の信者さんなど、

安全のためにあまり大きな手術にしたくない状況であれば、

こぶの部分を閉じるときに細くし、

さらにその外側に人工血管を巻いて大動脈を守るようにしています。ラッピングと呼びます。

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David & Bentallまた上行大動脈瘤が大動脈弁の形をゆがめて大動脈弁閉鎖不全症が合併しているときには

大動脈弁置換術または大動脈弁形成術を併せおこなったり、

デービッド手術で患者さん自身の弁を温存した大動脈基部再建をしたり、

弁が壊れているときにはベントール手術で大動脈基部をすべて取り換える手術を行います。

これらは心臓外科手術の中ではやや大きめのものとなりますが、

経験豊富なエキスパートならかなりの安全なオペとなっています。

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■さらに私たちの努力は

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私たちはこれをさらに進めて、なるべく小さい創で術後の痛みを減らし社会復帰をうながすよう、

ミックス手術(MICS手術つまり小切開低侵襲手術)法をつかって上記の手術を Median MICS行うようにつとめています。

右の図はミックス手術の皮膚切開の一例を示します。

 

新しいポートアクセス法MICSの経験の蓄積により、現在は上行大動脈置換には右小開胸をもちいた、いわゆるポートアクセスMICSでも手術できるようになりました。

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患者さんの安全確保とともに早い社会復帰や痛みの軽減、そして見えにくい傷跡でこころの傷も小さくなるなどのメリットがあり、今後が期待されています。

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■患者さんの想い出

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上行大動脈瘤はあまり大きくなると危険な病気です。

というのはもし破れてしまうと即死状態で病院まで行く時間がないことさえあるためです。

Aさんは70代女性で上行大動脈瘤のため私の外来へ来られました。

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弁はそう悪くないのですが、上行大動脈のみ悪くすでに直径 7㎝を超えて危険な状態でした。
手術ではこれを人工血管に取り換え、将来瘤になりそうなところも補強して万全を期しました。

術後経過は順調でまもなくお元気に退院されました。

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上行大動脈瘤だけではあまり症状もなく、理性で内容を判断し、私たちを信じてオペを受けて頂く必要があります。もちろん患者さんが十分納得いくように画像その他をお見せして証拠にもとづく医療というスタンスでお話しするようにしています。

手術で元気になられたAさんがこれから永く元気に暮らせることを楽しみにしています。外来で定期健診し安全を確認しながら進んでいきましょう。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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