薬剤溶出性ステントDESによるPCI(カテーテル治療)の
どちらがどう良いかという大規模前向き研究であるSYNTAXトライアルの
満4年のデータが先日の欧州心臓胸部外科学会EACTS(リスボン、ポルトガル)で発表されました。
PCIの大御所であるSerruys先生(オランダ)が発表者でした。
今回初めて冠動脈バイパス手術がPCIよりも生存率ではっきりと上回ることが示されました。
つまり、バイパス手術を受けた方が患者さんは長生きできるわけです。
死亡+脳卒中+心筋梗塞の全体では両群に大きな差はありませんでした。
これは1年目にバイパス手術群で脳卒中がやや多かったことが影響したためですが、
4年目では脳梗塞でも冠動脈バイパス手術はPCIと同レベルにまでつけています。
表のなかでMACCEは心臓や脳の大きな問題の発生、
Death/stroke/MIは死亡/脳卒中/心筋梗塞です。
またAll-cause mortalityはがんや事故その他を含めたすべての原因による死亡、
cardiac deathは心臓が原因の死亡、
repeat revascularizationは追加治療です。
その結果、
複雑な冠動脈病変に対しては冠動脈バイパス手術を標準治療として考えるべきで、
冠動脈病変がそれほど複雑でない患者さんつまりSYNTAXスコアが22点未満ではPCIは選択肢になり得ると述べられました。
つまり左主幹部病変や3枝病変の患者さんの75%は冠動脈バイパス手術がベストな治療であり、
残りの25%の患者さんにPCIを行うことができる、というわけです。
外科からは、4年でこれほどの差が出る以上、もっと長期になればいっそう大きな差が出る、
冠動脈バイパス手術が優れているのはもはや明らかだ、という意見がでました。
その一方、
内科からはこの研究で使われたTaxusステントよりも新しいXienceステントを今は使っているので、
この結果はもはや古いという声も。
卑怯千万、正面から堂々と勝負せよという声が外科医から聞こえてきますが、
何しろ患者さんの多くはまず内科の門をたたくため
どうしても内科の先生の好みが反映されがちなのです。
ともあれこうした研究と議論を延々と続けていくことになるということになりました。
このように外科の冠動脈バイパス手術の優位性が示されたSYNTAX4年の結果でしたが、
ESCヨーロッパ心臓協会のガイドラインはこれまでと同様でした。
つまり冠動脈複雑病変には冠動脈バイパス手術をというわけです。
これが世界の主流の考えです。
日本はさまざまな理由によって必ずしもそうではありません。
今後さらに多くのデータを突き合わせていく必要があるでしょう。
その後、今年3月の日本循環器学会の内科外科合同シンポジウムでも、
「これまではガイドラインを守らずにステントをどんどん入れる内科医が多かったが、これからの若い内科医はガイドラインを順守するような気がします」
といったご意見が権威筋の内科の先生からも出され、流れがすこし変わって来たという印象をもちました。
患者さんのほうからも勉強し、「患者力」を発揮するときが来ているのかも知れません。
医療の主体は患者さんなのですから。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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