ポートアクセス法が前向きに安全な場合【2020年最新版】

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最終更新日 2020年2月24日

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◾️ポートアクセスでのミックスの一般的な利点

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ポートアクセス法の心臓手術(写真右:術後の写真です)は MICS MVP1

MICS低侵襲心臓手術の代表的なものとして役立っていますが、

そのメリットは主に苦痛・疼痛の軽減や早い社会復帰と、

創が小さく見えにくいという美容上のものが主でした。

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それらのメリットは患者さんの肉体的・精神的苦痛をやわらげ、

感染などの合併症の発生を減らし、

心臓手術という患者さんにとっての大きな試練を多少でも乗り越えやすくするという点で

間接的に安全性の向上にも貢献している位置づけと言えましょう。

ポートアクセス法による僧帽弁形成術の標準的な手術事例を示します。

視野出しがちょっと難しい同法の僧帽弁形成術の事例はこちらです。

同法で行うやや複雑な僧帽弁形成術の事例はこちらへどうぞ。

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◾️ポートアクセスが安全上役立つ時

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しかしこのポートアクセス法は時には直接的に安全性を向上させることもあるのです。

その一例をお示しします。

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図4 IHSS日本語74歳女性で

僧帽弁閉鎖不全症

大動脈弁下狭窄症(IHSS、ある種の閉塞型心筋症HOCM)と

巨大左房・慢性心房細動のため来院されました。

僧帽弁閉鎖不全症はHOCMのために二次的に引き起こされる要素と、

弁自体が壊れている要素の両方を持っていました。

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そこで当初の予定では左室の異常心筋の切除と

僧帽弁形成術、そしてメイズ手術とくに心房縮小メイズ手術でした。

その場合は心臓へのアプローチが左房と上行大動脈の2か所となるため

胸骨正中切開を行う予定でした。

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Ilm09_dg01005-sところが術前血液検査で不規則抗体という、

同じ型の血液でもアレルギー反応などを起こす抗体が発見されました。

ほとんどの血液に対して何らかの免疫アレルギー反応を起こす恐れがあり、

その反応の強さによっては命の危険もあるほどでした。

自己血をとろうにも、

その取った血液を保管するときに血栓が起こったりする恐れもあり

自己血さえ使えません。

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◾️エホバの証人の患者さんの場合と同様の利点が

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つまりエホバの証人の信者さんの心臓手術のように、

無輸血でオペすることが必須となったわけです。

小柄な女性なので体外循環の回路を血液で充填するだけでも血液が足りなくなる恐れがあるほど、

余裕のない状況でした。

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通常の胸骨正中切開(下図の左側)では

骨の断端からウージングというしみだすような出血が起こり、

これは完全に制御することが難しく、

血液が固まることに頼っているため、

この患者さんでは輸血が必要になる恐れが高い状況となりました。

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MICS3そこでポートアクセス法で右胸を小さく切って(左図の右側)、

骨は全く切らず、手術しました。

極力短時間で、かつ確実に心臓の操作を完成させるよう、

弁は人工弁とし、

かつ異常心筋に弁が衝突しないよう、機械弁で安全を期しました。

機械弁であるならワーファリンをもちいるため、血栓はできにくいと判断し

心房縮小メイズもあえて取りやめとしました。

なお僧帽弁ごしに異常心筋はブロックを起こさない範囲で切除しました。

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出血は術中術後をとおしてほとんどゼロで、

患者さんはすぐ元気になられ、

術翌朝には集中治療室を出て一般病棟に戻られました。

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こうした患者さんではいったん輸血が必要となれば、

輸血→強いアレルギー反応とくにアナフィラキシー→ステロイドや厳しい血管収縮剤→全身状態の悪化から危険な状態となる懸念があります。

結果的にまったくスムースで何もなくきれいに治られたのですが、

Illust1447それはポートアクセスによるMICSをはじめとした慎重な方針のおかげと思います。

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◾️それ以外でもポートアクセスが安全に貢献

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また平素からエホバの証人の患者さんの心臓手術から逃げずに、安全管理を徹底し、正面から取り組む姿勢がこうした難ケースで役に立つのです。

あるいは再手術などでもポートアクセス法が安全を主目的として行うことがあります。

196145150再手術や再々手術で、昔、冠動脈バイパス手術や大動脈弁置換術を受けた患者さんが僧帽弁閉鎖不全症や三尖弁閉鎖不全症となり、手術が必要なときなどに、

ポートアクセス法なら最小限の剥離で済むため、手術時間や輸血の節約につながり、安全性が向上します。(手術事例ー準備中)(患者さんからのお便り86 をご参照ください)

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ともあれ、ポートアクセス法の心臓手術は、夏服が着れるという美容上のメリットや痛みが少なく早く社会復帰できるだけでなく、意外な場面でも前向きに役立つことがあるのです。

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メモ: 私たちの経験ではポートアクセス法の手術での無輸血率はほぼ100%に達しています。

完全に100%でないのは、中には手術前から貧血が強く、そのための輸血が必要となったという特別なケースが含まれるからです。

この意味でもかなり有用な方法と言えましょう。


患者さんの想い出はこちら:

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Heart_dRR
お問い合わせはこちら

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患者さんからのお便りのページへ

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参考ページのIndex:

MICS(ミックス手術)とは 

  とくにポートアクセス手術とは
   
  その位置づけ
  
  美しいLSH法とは
  
  かかる費用は?

ハートポートとは
  


危険なの

  
  その術後の痛み軽減について
  
  社会復帰が早いわけは?
  
  美容について
  
  胸骨「下部」部分切開法とは
  
ビデオ ポートアクセス法による僧帽弁形成術
  

  
僧帽弁

  ミックスによる弁形成

  同、弁置換

  同、メイズ手術

  ポートによる弁形成術

大動脈弁

  ミックスによる弁置換

  同、弁形成

  ポートアクセス法による大動脈弁置換術

三尖弁

  ミックス法による弁形成

患者さんやご家族からのお便り

お便り54: ポートで弁形成を受けた若者患者さん

お便り59: 被災地支援へ!同法の弁形成術を受けられた患者さん

お便り63: ポートアクセスの複雑僧帽弁形成術を受けられた患者さん

お便り65: 同法による弁形成で元気になられた患者さん

お便り68: 同法の弁形成術を受けたバーロー症候群患者さん

お便り74: 同法で弁形成術とメイズ手術を受けた患者さん

 

 

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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