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◾️ポートアクセスの利点は
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ポートアクセス・MICSによる心臓手術が注目を集めつつあります。
ポートアクセスでは主に右胸を小さく切るだけで心臓が治せるため、
術後の痛みが軽く、
骨を切らずにすむため仕事復帰や社会復帰が早く、
創もみえにくいため美容上も有利で、
患者さんの心の負担が軽くてすむという利点さえあります
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◾️ポートアクセスでのミックスが役立つ場面は
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たとえば僧帽弁形成術(参照: 標準的手術事例、視野出しがちょっと難しい手術事例、形成がやや複雑な事例)や僧帽弁置換術、
あるいは大動脈弁形成術や大動脈弁置換術その他ですね。心臓弁膜症いがいの手術にも使えます。
写真右上はポートアクセス・MICSによる僧帽弁形成術のひとこまです。
創部の長さは約6㎝程度です。
しかし写真右下のように弁は良く見えています。
形成術がきれいに決まった瞬間です。
オペの質を落とさずにすむことがおわかり頂けるかと思います。
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◾️ミックスワールドの中でポートアクセスの位置付けは?
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こうしたさまざまな利点をもつポートアクセス・MICSですが、
開胸をともなう低侵襲小切開手術いわゆるMICSの中で
その位置づけはどういうものでしょうか。
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さまざまな意見や考えがあります。それらを総合して考えれば、たとえば
第二段階.ポートアクセスで胸腔鏡なし
第三段階.ポートアクセスで胸腔鏡使用
第四段階.ロボット(ダビンチなど)
がその一例です。
写真右はダビンチでの手術中のひとこまです。
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創の大きさは
第一段階 8-15cm以上
第二段階 6-8cm(5-6cm)
第三段階 4-6cm
第四段階 4cm前後
となりますが、
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◾️ところが、落とし穴?
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第二第三の皮膚の穴、いわゆるサテライト創(副次創)つまり5mmから10mm程度の穴の数は
第一段階 2つ(ドレンの穴2つ)
第二段階 3つ(ドレンの穴2つ+クランプの穴1つ)+微小な穴2-3つ
第三段階 4つ(ドレンの穴2つ+クランプの穴1つ+胸腔鏡の穴1つ)+微小な穴2-3つ
第四段階 5つ(ドレンの穴2つ+ロボットアームの穴3つ+胸腔鏡の穴1つ)+微小な穴2-3つ
などが考えられます。
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なお術者の工夫により、穴の数は多少変動はあります。
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そこで穴の数をひとつ減らすなどが可能です。
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私たちの経験では最近はほとんどのケースで穴は1つに抑えることができています。
LSH法と呼んでいる私たちの方法で、患者さんの満足度は高いようです。
上写真はLSH法によるMICS手術後の傷跡です。腕を下げた普通の姿勢では傷はほとんど見えません。
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◾️そうすると本当にきれいな傷跡とは?
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世間一般には段階が上がるにつれてメイン の創は小さくなって行きますが、
小さな穴の数は増え、
とくにロボットではアームが2+1本あるためより多数となります。
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小さな穴は目立たないから構わないとする考えもありますが、
これらの穴は白人とちがって日本人などの有色人種では色素沈着が起こると意外に目立つもので、
気にすれば気になるというレベルのものです。
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◾️コスト面では?
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第一段階 通常の正中切開手術と大差なし
第二段階 ポートアクセス(MICS)用の手術器械が必要。
第三段階 上記に加えて胸腔鏡やビデオ録画などのセットが必要。ここまでは保険医療の中で行えるため患者さんの追加負担はありません。自己負担は軽くなります。
第四段階 ダビンチロボットは約3億円+維持費やロボット腕など消耗品などが高価。保険は効いても消耗品までカバーされないため患者さんの自己負担は少なくない。
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値段の高いアームは定期的に新品と交換が必要ですし、
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これらを総合的に勘案してポートアクセス法の位置づけを考える必要があります。
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ロボットをもちいないポートアクセス法の場合は、
創はロボットについで小さく、
小穴が少ないため総合的にきれいな仕上がりになりやすく、
コストもそう多くかからず患者さんや病院さらには社会の経済を圧迫する恐れは少ないと言えます。
時間的にもやや有利ですから患者さんの体への負担や安全性でも少しは利点があります。
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胸腔鏡を使うかどうかで微妙な差があり、これは今後の課題です。
胸腔鏡を使うとどうし ても個々の操作に時間がかかり、複雑な弁形成などの場合に危険性が増したり、その結果として弁置換に切り替えざるを得なくなるなどの問題が起こり得ます。
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私たちは現時点でこのロボットなしLSH・MICSのポートアクセスが一番実用的かつ患者さんに益するものと考えています。
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なおこれは弁膜症やASD心房中隔欠損症、不整脈手術におけるMICSの心臓手術の場合で、
冠動脈バイパス手術の場合はロボットで内胸動脈を剥離・採取するなどの活用法もあり、
異なる価値判断ができるかも知れません。
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◾️他科領域では、、
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またこれらのお話しは心臓手術についてのことで、
泌尿器科や産婦人科でのMICSでの話とは異なります。
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たとえば泌尿器科の前立腺手術では前からアプローチする場合、
手術部位が大変深いためロボットが有利で、
実際アメリカでは多くの施設がそれを活用しており、
日本でも泌尿器科領域では人気を集めつつあります。
心臓とは少し違う状況です。
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ともあれこうしたポートアクセスに代表されるミックス手術(MICS)が進化すれば
心臓血管外科手術もこれまでより一段高い評価や感謝を
患者さんから得られるようになるかも知れません。
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お問い合わせはこちらへどうぞ
患者さんからのお便りのページへ
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参考ページのIndex:
とくにポートアクセス手術とは
それが前向きに安全な場合
美しいLSH法とは?
かかる費用は?
ハートポートとは
危険なの?
術後の痛み軽減について
社会復帰が早いわけは?
美容について
胸骨「下部」部分切開法とは
ビデオ ポートアクセス法による弁形成術
僧帽弁
ミックスによる弁形成
同、弁置換
同、メイズ手術
ポートによる弁形成術
大動脈弁
ミックスによる弁置換
同、弁形成
ポートアクセス法による大動脈弁置換術
三尖弁
ミックス法による弁形成
患者さんやご家族からのお便り
お便り54: ポートアクセス法で弁形成を受けた若者患者さん
お便り59: 被災地支援へ!同法の弁形成術を受けられた患者さん
お便り63: ポートアクセスの複雑僧帽弁形成術を受けられた患者さん
お便り65: 同法による弁形成術で元気になられた患者さん
お便り68: 同法の弁形成を受けたバーロー症候群患者さん
お便り74: 同法で弁形成術とメイズ手術を受けた患者さん
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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