腹部大動脈瘤や胸部大動脈瘤の患者さんに優 しい治療法であるステントグラフト(略称EVAR、TEVAR)ですが、
大動脈の内側から治すという特徴に由来する
ある程度の問題・課題があります。
それらを以下に示します。
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◆まずステントグラフトを大動脈の中で広げる最中の血管への傷や不十分な固定、
そしてステントの骨格の破損やグラフトの破れなどがあげられます。
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◆またステントグラフトの装着が無事に完了したあとも油断はできません。
通常、半数の大動脈瘤は12か月で血栓化し小さくなります。
そのためにステントグラフトが折れたり、曲がったり、
位置がずれたりすることもあります。
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◆もうひとつステントグラフトの代表的な問題として
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これはステントグラフト留置後も、
もとの大動脈瘤に血流が残ることで、
瘤が残存するということになってしまいます。
このリークが残ると、場合によっては
瘤がまた拡大し、破裂することもあり得ます。
こうした場合には血栓形成を促したり、
追加のステントグラフトを入れたり、
外科手術で治したりする必要がでてきます。
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エンドリークには大きく4つのタイプがあります。
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◆タイプI
およそ0から10%の患者さんに起こる問題で、
グラフトと大動脈をグラフト両端できちんと密着できなかったときに起こります。
その原因はグラフトのサイズが小さすぎるとか、
大動脈に石灰化や血栓形成が著明でグラフトが大動脈壁に密着できなかったときなどが挙げられます。
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タイプIはときには治療のあとしばらくして起こることもあります。
それはステントグラフトが大動脈の瘤の部分に留置された場合、
時間とともに瘤が拡張してグラフトがはずれてしまうという場合です。
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そのため、タイプIリークは見つけ次第治すことが肝要です。
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抗凝固剤を中和し、グラフトをもう一度バルンで再度広げる必要があります。
リーク部分に別の小さなステントグラフトをつけてふたをすることもあります。
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◆タイプII
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一番よくあるパタンで、
約10から25%の患者さんで起こると言われています。
このタイプIIではもとの大動脈の枝から血流が瘤に出入りします。
一番多いのは腰動脈からのリークです。
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タイプIIリークへの対策はまだ意見が分かれるところです。
30-100%の患者さんでは、そのまま落ち着くと報告されています。
しかしもしもとの瘤が拡張し始めることを発見したら
そのリークは修復する必要があります。
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またもしそれが6-12か月以上続けば、
それも修復の対象となることがありますが、
もとの瘤のサイズが変化なければリークを修復すべきかどうかは意見が分かれるところです。
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◆タイプIIIとIV
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珍しいタイプです。
タイプIIIはステントグラフトの連結部などの隙間からもとの瘤に血液が漏れるタイプで、追加のステントグラフトが必要となります。
タイプIVはステントグラフト本体から血液が染み出て起こるもので、自然に治ります。
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◆ステントグラフト留置後症候群
時に炎症反応がでて発熱や白血球増多、CRP増加あるいはステントグラフト周囲に空気像が見えることがあります。
エンドトキシンやインターロイキン6などが増加することがあります。
これは感染のためではなく何らかの刺激のための炎症と考えられます。
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◆ステントグラフトの位置のずれMigration
そのままではもとの瘤が拡張したり破裂するからです。
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位置のずれはステントグラフトの中枢部の大動脈が拡張してグラフトを支えられなくなることで起こります。
130例の紡錘状腹部大動脈瘤の検討で12か月フォローすると
14例で5mmから10mm以上の位置のずれがみつかりました。
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そのうち12例で14回の追加ステントグラフトまたは外科手術が行われました。
これらの患者の特徴は治療前の中枢部の長さが22mmと、ずれなかった患者の31mmより短かったのです。
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ステントの位置のずれは重要なことなので、慎重にフォローアップすべきです。
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こうした合併症を的確に予防し、
あるいは早期発見して対策を立てることで、
ステントグラフト(EVAR、TEVAR)は一層安全で患者さんに優しい治療として進化していくことでしょう。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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