最終更新日 2020年3月27日
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◼️粘液腫とは?
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とくに左房に多い、油断できない心臓腫瘍です
その成因について、かつては腫瘍説と血栓説がありましたが今は腫瘍説で確定しています。
粘液腫は心臓に発生する腫瘍の約半分を占めるものです。
形は不規則で、ゼラチン(ゼリー)のような性質で、一応良性腫瘍です。色調は黄色や灰白色からときにきれいなグリーンのことさえあります。
粘液腫の75%は左心房(左房)に発生します。(右図は左房粘液腫をしめします)
20%が右房に、残りが心室に発生します。
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◼️どんな症状が?
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粘液腫は左房のなかでも心房中隔にできやすく、次第に大きくなって僧帽弁の入口をふさぐような形になることがしばしばあります。
そこで息切れなどの心不全や動悸などの不整脈、そしてつぎのように、脳梗塞などの大きな問題を起こします。
失神発作をおこしたり突然死する方もあります。
息切れは横になると楽になることがあります。これは粘液腫の位置が変わって僧帽弁を閉塞しなくなるためです。
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◼️なぜ怖い?
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粘液腫が怖いのは、ゼラチン状で柔らかくもろいため、簡単にちぎれることです。
いったんちぎれてしまうと、血流に乗って全身のどこへでも流れて行きます。もし脳に流れていけば、脳梗塞となり、運がわるければ命にかかわる事態になってしまいます。
運がよくても半身マヒなどの恐れがあり、仕事や楽しみを奪われることになりかねません。
粘液腫のその他の症状として、発熱、体重減少、レイノー現象(手足の指先が白く冷たくなって痛む)、などがあります。
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◼️遺伝するタイプは?
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遺伝性の粘液腫の多くは20代半ばの男性に発生します。
遺伝性でない粘液腫は女性に多くみられ、なかでも 40〜60歳の女性に発生しがちです。
遺伝性ではない粘液腫は左心房に発生しやすく、
遺伝性のほうはそれ以外、たとえば右心房やときに右心室や左心室にも発生します。
遺伝性のほうが再発率が高く、悪性度が高いと言われています。
そのため30歳以下、とくに20歳以下の若い患者さんでの粘液腫は注意が必要です。
◼️どうやって診断するの?
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粘液腫の診断は、心エコー検査で確定します。
その他に、CT検査、MRI検査、あるいは心カテーテルによる造影検査などが役立つこともあります。
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◼️治療は?
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粘液腫は、上記のように突然死や脳梗塞などの重大な合併症を引き起こすこわさがあるため、
診断がつけばできるだけ早く心臓手術することが勧められます。
私たちは粘液腫、とくに上記の危険なタイプでは診断から1週間以内に手術するようにしています。
実際、手術を待っているうちに大きな合併症に見舞われた患者さんを他病院で見たことがあります。
善は急げの病気なのです。
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◼️手術のポイント
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手術では完全切除が原則です。
粘液腫そのものは良性腫瘍で再発は理論的には少ないのですが、
実際に再発の報告は多数あります。
再発の原因は取り残しか、悪性度の高いタイプかです。
完全切除するためには、心房中隔の切除だけでは不十分なことがあります。
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僧帽弁の一部まで切除しなければならないケースでは僧帽弁形成術のノウハウが大変役立ちます。(お便り11をご参照ください)
大動脈弁近くまで進展しているときには大動脈からのアプローチも必要となります。(お便り43をご参照ください)
疑いのある組織を大きく切除し、それを再建するという意味では、感染性心内膜炎(略称IE)の経験が役に立ちます。
さらに粘液腫が大きいときにはその圧迫のため僧帽弁輪が広がり、僧帽弁閉鎖不全症が発生していることもあります。
その場合も僧帽弁形成術を併用することがあります。
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◼️外科医の経験量が大切
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そこで粘液腫の手術はできるだけ経験豊富な心臓外科医が手術することが望ましいと言えます。
とくに粘液腫の位置が通常の心房中隔から離れている場合は、
経験の少ない外科医では不完全治療となって再発の危険を背負うことになりかねません。
こうしたことを踏まえ、粘液腫と言われたら、すぐ経験豊かな専門家に相談されることを勧めます。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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