この4月18日から20日まで日本心臓血管外科学会の総会があり秋田へ行って来ました。
今回は秋田大学の山本文雄先生が会長で、山本会長というだけでもどこかほっこりした温かいものを感じるうえに、
秋田という個人的に魅力的な場所でしたので、いろいろとデューティがあることをこれ幸いと参加して参りました。
その間、患者さんたちには心臓手術をしばしお待たせして申し訳ありませんでした。
あの東日本大震災からまだ1年あまりしか経っていない中で、
東北地方でこの大きな学会が開催できたこと自体、立派なことと思いました。
学会のテーマも「医療再考―先進医療の地方での展開」というこれまでにないユニークな、しかし切実なものでした。
実際、秋田の地で医療が大変厳しい状況にあることが特別セッションや山本先生の会長講演でもひしひしと感じられました。
さらに、学会前日の会長主催晩さん会へ秋田県知事や秋田市長といった地域の主な方々が出席されるという異例の会で、
秋田大学の学長や医学部長といった重鎮の方々さえ2番目のテーブルに座っておられること自体、山本先生や心臓血管外科学会が地域の中でどれほど頼りにされているかをよく物語っていました。
会長講演の中でも秋田大学が緊急手術を断ったことがない、努力の跡を述べられ、
とくに雪深い冬季に秋田県の心臓血管手術の最後の砦として県民を守ってこられたことが実感できました。
心臓外科の世界では施設が乱立し、一施設あたりの症例数・手術数が少なくなり、これが患者さんの治療や若手の教育に大きな障害となっていることが問題となって久しいのですが、
こと地方の医療の中ではある程度の距離に心臓手術ができる施設がなければ地域住民のいのちが守れないという問題があります。
そのため施設集約つまり施設(病院)を束ねて優れた治療を患者さんや住民の方々に提供するというこれからの方向性が、
地方では都会と同じ形では成り立たないことを実感しました。
学術集会としての内容も豊富で、ガイドラインの改訂や天皇陛下のバイパス手術などで示されるように、冠動脈バイパス手術の良さが見直され、
カテーテルによるPCIよりも患者さんが長生きできるというデータがさらに示されました。
たとえばCREDO-Kyotoレジストリーからの報告などがそうでした。
きちんとしたデータをもとにして内科と外科でよく相談して治療方針を立てるという当然のことが、今、真剣に論じられるようになったのは大変よろこばしいことです。
またこの研究を発表した京大の丸井晃先生が最優秀演題賞を受賞されたことは、
かつて丸井先生とともに汗を流したものとして二重の喜びとなりました。
虚血性心疾患のひとつである心筋梗塞後の心室中隔穿孔(VSP)の治療でも着実な努力と進歩の跡がみられ、うれしく思いました。
私がトロントのデービッド先生のご指導のもと、開発研究した心臓手術術式(Exclusion法とかDavid-Komeda手術などと呼んでいただいています)が多くの方々のご努力でされに磨かれ洗練されていることを再認識し、光栄に思いました。
蛇足ですが、座長の天野篤先生のご厚意にてコメントを何度かさせていただきました。
若い先生方がこの手術をやるときの注意点と、危機脱出法をお教えしました。
天野先生は天皇陛下の冠動脈バイパス手術をきれいにやって下さった誇らしい仲間ですのでいっそううれしく思いました。
また機能性僧帽弁閉鎖不全症のセッションで畏友・青田正樹先生が私たちが京大時代に開発した腱索転位(前方吊り上げ)法を引用し、さらに発展させた研究を発表されました。
先人の仕事を引用しない傾向のあるこの国で、青田先生の武士の情にはあらためて感動しました。
せっかくの機会ですので私もコメントをさせて頂きました。
現在、吉田清教授率いる川崎医大循環器内科と共同研究している「乳頭筋ヘッド最適化」手術がこの腱索転位法の発展改良型でさらに効果があることをお伝えしました。
セッションのあとで天野先生が私のところへ来られ、この新術式を2例ほど行い、良い結果を得ましたとのことで、これまた持つべきものは友達とジーンときました。
弁膜症関係や大動脈関係ではその他にもさまざまな工夫が発表され着実な進歩が感じられました。
僧帽弁形成術やMICS(ポートアクセス法など)でも良いディスカッションがなされました。
アカデミック外科医の会と不整脈外科研究会と再生心臓血管外科研究会の3つです。
私はそのいずれにも関与して来ましたので、本音はすべてに参加したかったのですが、同時開催とあってはそうもいかず、今回はアカデミック外科医の会に参加しました。
今回は川副浩平先生が当番世話人で、テーマは「我が国で生まれた心臓血管外科手術―創意工夫の記録」という大きなものでした。
なんでも川副先生が数年前に心臓血管外科学会の会長をされたときにやりたかった企画とのことで、力が入っていました。
ポスターのように歴史的ともいえる大先輩に交じって、不肖私も講演させて頂きました。
京大病院から名古屋ハートセンターまでの14年間で15の新術式あるいは工夫を発表して来ましたが、最多賞ということで発表させて戴いたようです。
学会場7階に設けられた展示場に多数の方々が来て下さり、それらの方々からあとでお褒めいただき光栄なことでした。
これからはこうした工夫をより多数の先生方に使っていただき、真の社会貢献になるようにしたく思いました。
海外ではすでに使って頂いているところもあり、さらに広めたいものです。
同時開催の日本不整脈外科研究会では名古屋ハートセンター(4月から豊橋ハートセンター)の小山裕先生がMICSでのメイズ手術を発表してくれました。
けっこう好評で、良いコメントを頂いたそうです。
患者さんにやさしいメイズ手術でさらにこの領域を発展させたいものです。
2日目午後の会長要望演題「機能性三尖弁閉鎖不全症」のセッションでは座長を務めさせていただきました。
三尖弁閉鎖不全症は患者さんが重症になればなるほど大きな問題となります。
たとえば普通の僧帽弁膜症で三尖弁もある程度逆流しているなどの状況は治すのも簡単ですし病気もそう危険でもないことが多いです。
しかし病脳期間が長い再手術例などでの三尖弁閉鎖不全症では肝硬変などの重い肝機能障害を合併することもありいのちにかかわることもあるのです。
またこれらの中には通常の弁輪形成だけでは逆流が制御できないケースもあります。
こうした状況についての研究が君津中央病院、聖隷浜松病院、東京医科歯科大学、大阪大学、昭和大学、神戸中央市民病院、静岡市立病院、などから発表され、内容あるディスカッションがなされました。
座長としてもやりがいのあるセッションでした。
2日目夜の会員懇親会では秋田の良さを堪能できるパーティになりました。
地元の味自慢と観光案内、秋田美人の歓迎や伝統音楽のモダンバージョン、会長晩餐会と同じミス秋田の司会などで秋田良いとこと皆さん確信されたようです。
多数の後輩や友人と話ができ同窓会のような遊びの会のような懇親会となりました。
3日目は、ちょっと会場を抜け出し、男鹿半島を一周して来ました。もちろん写真を撮るためです。
同時に、小学生のころから八郎潟の干拓になぜか興味があり、日本第二の大きな湖を農地に変えた事業の結果を見る機会を待っていたのですが、チャンス到来ということで行って来ました。
初めに八郎潟干拓地を少し歩きました。
ついで寒風山の頂上にある展望台へ行きましたが、そこに併設されている八郎潟記念博物館で干拓前の豊かな自然を見ることができ、少し悲しい気持ちになりました。
それから男鹿半島を一周し、見事な自然を堪能しました。遠くに見える冠雪の奥羽山脈と海のコントラストや、世界でも珍しい火山爆発による湖や素朴な棚田や漁村などもどこか新鮮でした。
ということで学会3日目は会場外で自然美の学習で過ごせてラッキーでした。
総じて心臓血管外科と秋田の素晴らしさを実感できた学会でした。
会長の山本文雄先生や関係の皆様に感謝申しあげます。
平成24年4月20日
米田正始 拝
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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