術式名: 拡張型心筋症にたいする心尖温存式バチスタ手術。
臨床に用いた時期 2001年―現在
実施した施設 京大病院、名古屋ハートセンター
考案の目的と概略
拡張型心筋症DCMに対するPLV(左室部分切除術、いわゆるバチスタ手術)において心尖部を温存すると心尖部を切除する場合より術後左室機能が良好であることが実験研究で判明した。
心不全の動物モデルをもちいて、急性実験でも慢性実験でも優れた結果を出した。そこで、
このコンセプトを臨床でも応用し、安定・良好な成績を得た。
心尖部を残すとなぜ術後左室機能が改善するかの詳細なメカニズムはまだ未解明である。
しかし心尖部が左室機能の中で moderator調節器として役立っていることは生理学では知られており、
またTorrent-Guasp先生の解剖学的研究・心筋ベルト構造 muscle-band theoryでも心尖部が心筋ベルトの連続性を保つうえで欠かせないことが示されている。
メカニズムの科学的解明は今後の研究に待ちたい。
現在までこの方法を高度に拡張したDCM患者で左室側壁に病変があるケースなどに活用している。
内容の説明
DCM大型動物で従来の心尖部を切除するPLVよりも心尖部を温存するPLVは術後心機能が優れていた。
これを根拠として臨床でも活用し、PLVの病院死例は減少した(下記シリーズで13例中1例のみ死亡(重症・高齢の複合左室形成術例であった))。
心尖部を温存する左室形成術では、術後の左室機能は有意に改善した
心尖部を温存しないタイプの、つまり従来型の左室形成術では、術後左心機能は新術式の場合ほど改善しなかった。
心尖部温存式左室形成術(上記PLVとSAVE型手術)の長期成績は 安定している。
年月が経っても生存率があまり低下しない。
術中写真(術式の解説)
写真の左側が頭側、右側が腹側である。
すでに左室側壁の薄い部分が開いている。
また左冠動脈回旋枝に影響を与えないように、あまり心基部には切りすぎないように注意している。
僧帽弁の逆流を予防するために適宜アルフィエリや乳頭筋接合などを行う
サルコイドーシス心筋症などでも活用(複数の左室形成術)できることを報告した。
左室形成術の完了。
重症例では肝機能不全などを合併していることも多く、出血傾向が懸念される場合はテフロンフェルトストリップを3枚使用し、徹底止血を心掛ける。
この心臓手術法は権威あるJTCVS誌の表紙を飾ったこともあり、協力・貢献して下さった多くの方々に厚く感謝申し上げます。
アメリカでは保険適応の障壁のため、この心臓手術は現在下火になっているが、
ヨーロッパや日本などを含めた世界各国で、静かに、着実に患者さんを救命していることを誇らしく思っています。
発表文献(臨床第一報)
Nishina T, Shimamoto T, Marui A, Komeda M. Impact of apex-sparing partial left ventriculectomy on left ventricular geometry, function, and long-term survival of patients with end-stage dilated cardiomyopathy. J Card Surg. 2009 Sep-Oct;24(5):499-502.
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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