冠動脈関係では、バイパス手術CABGがPCI治療に対して成績が有意に良好であることがSyntaxトライアル4年目のデータでほぼ確立し、外科の盛り返しの雰囲気がありました。
まもなく5年目のデータがでればその差はさらに広がりそうで、CABGの復権は本物になるかも知れません。
同様のことがTAVI(またはTAVR)でもあり得て、その旗手がsutureless valveなのかもしれないと思いました。
虚血性僧帽弁閉鎖不全症に代表される機能性僧帽弁閉鎖不全症(FMR)の治療では僧帽弁クリップが外科治療(僧帽弁形成術)にそん色ないとするエベレストトライアル結果が報告され外科が少し失望しているように見えました。
私はこの考え方には賛同できません。
十分な効果がないとわかっている僧帽弁輪形成術(略称MAP、弁輪という弁の付け根を治す心臓手術です)とクリップを比較されるのは遺憾です。
すでにMAPよりはるかに弁逆流解決に有効な方法が外科からはいくつも発表されています。
その中でもっとも難しいと言われる後尖にも効きしかも左室機能を改善させる方法(Papillary Heads Opimization乳頭筋ヘッド最適化と呼んでいます)を発表している立場からコメントしようと思いましたが、時間の都合でできませんでした。
次の機会に皆とディスカッションしたく思いました。
弁膜症関係では学会直前のskill courseで大動脈弁のルート拡大やデービッド手術、より低侵襲な再手術の方法などが講演されました。
僧帽弁関係でも通常の僧帽弁閉鎖不全症に対する弁形成や虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する弁形成、ロボット手術などが論じられました。
その他心房細動に対するメイズ手術やIHSSに対する心室中隔心筋切除術なども講義がありました。
あまり新しいものはありませんでしたが、地道が進歩が感じられて良かったとおもいます。
大動脈関係ではステントグラフトEVARの講演がありましたが、大きな変化はなく、今回の学会全体としてそれほど多くの内容はありませんでした。
これはこのAATSの直前にニューヨークで恒例の Aortic Symposiumがあったことも関係していたのかもしれません。
いずれにせよ内科と外科がこれまでのような独立独歩ではなく、常に歩み寄り、常に相談して個々の患者さんにベストの治療をオーダーメイド的に創るというハートチームの発想が冠動脈だけでなく弁膜症、大動脈などすべての領域に広がった感があります。
上記のTCT@AATSの最後の発表4題は有力施設で内科と外科がどのように協力しているか、どういう組織でどういう運営をしているかの報告がありました。
Cleveland Clinic クリーブランドクリニック、Vanderbilt バンダービルド大学、Columbia コロンビア大学、そしてPennsilvania ペンシルバニア大学からの報告でした。
連携もここまで来ましたという良いセッションだったと思います。
心不全の 領域では補助循環がさらに進化を遂げ、ますます小型化しDestination therapyが一層改善した感があり、まもなく心移植の成績に並ぶ気配さえ感じられました。
軸流ポンプや遠心ポンプを中心とした非拍動性の小型ポンプでさらに改良されそうな雰囲気でした。
2日の昼に国際交流の委員会が開かれ、AATSの重鎮の方々やアジアやヨーロッパの先生方とともに参加しました。
これからAATSはより国際学会としての性格を濃くする方向が示唆され、教育でも国際フェローが検討され、好ましいことと思いました。
学術的なこと以外では、カリフォルニアらしく会員懇親会がワインの当て比べ会を兼ねたパーティで(右図)、
それも恐竜や水族館が併設された博物館で行われ、遊び心のある懇親会でした。
今回の会長であるCraig Smithと来年の会長Harzell Schaffから挨拶があり結構力が入っている様子でした。
個人的にはトロント、スタンフォード、メルボルンの恩師や仲間と歓談できたり、日本を含むアジアの先生方やヨーロッパの友人らと話できたのがうれしいことでした。
またかつて京大の研究室でお世話させて頂いた王 健先生がテキサスでの成果をもとに立派な発表をしてくれたり、かつての仲間の指導する研究がいくつか発表されたのも良かったです。
夜にはサンフランシスコの夜景の写真を撮りに歩きまわっていました。
20年前は治安が悪く夜は歩く気がしなかったのがウソのようでした。
もっとも危なそうなところは近づかないようにはしましたが。
心臓血管外科の立ち位置が変化しているときに、AATSのような世界の仲間が集まるレベルの高い学会で仲間と語らうことは大きな意義があると思います。
留守番しながら手術を楽しんでいる名古屋ハートセンターの若手諸君や関係の皆さんに感謝しつつ充実した時間を過ごせた5日間でした。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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