TAVRとはTranscatheter Aortic Valve Replacementの略称で、これまでTAVI (Transcatheter Aortic Valve Insertion)と基本的に同義語です。
アメリカ等の保険の事情で最近はこのTAVRという言葉が使われるようになっています。
さてTAVRは急速に進化を遂げ、当初は外科的な大動脈弁置換術AVRができない症例に限定して行われていましたが、
成績が年々改善したため次第に「普通の」ハイリスク例にも使われるようになってきています。
この2つの治療法の成績が出つつあります。
それがパートナー臨床研究(PARTNERトライアル)で、このコホートAからの解析が2011年にNEJMから発表されました。
それによれば699名の患者をTAVRとAVRに無作為に振り分けられました。
1. まず術後30日死亡率がTAVR3.4%、AVR6.5%(p=0.07)、1年でも24.2%と26.8%と差がない
2. 脳梗 塞やTIAは術後30日でTAVR5.5%、AVR2.4%、1年で8.3%と4.3%で外科AVRの方が良い。
大きな脳梗塞でも同様の傾向が見られた。
3. 症状の改善は術後30日ではTAVRのほうが良いが1年では差はなかった
4. 血管の合併症ではTAVR11.0%、AVR3.2%と外科AVRが良かった
5. 出血ではTAVR9.3%、AVR19.5%、心房細動の発生でも8.6%と16.0%と、いずれもTAVRの方が良かった
総じて、ハイリスクの患者ではすでにカテーテルによるTAVRは外科AVRに匹敵する生存率を達成しているが、脳梗塞ではまだかなり劣っているということでしょう。
この結果を踏まえてTAVRでは脳梗塞を防ぐ網状のデバイスが開発され成績改善が期待されます。
こうしたデバイスはかつて外科でも開発されましたが、成績が安定せずすたれた経緯があり、一層の努力が求められるでしょう。
外科AVRでは出血や合併症の減少を進める努力がなされています。
たとえば外科AVRでこれまでの人工弁を弁輪に縫い付ける作業を止めて、その視野でカテーテルによる弁置換を行えば、脳梗塞が少ない状況はそのまま維持しつつ、これまでより短時間で手術が終わるため合併症が減ります。
これをSutureless valveと呼び、欧米では臨床試験が進んでおり、成績の改善がみられています。
日本ではまだ時間がかかりそうです。いわゆる drug lagと言われる、行政がゆっくりなので認可が遅いのです。
外科 の立場からさらに言えば、ヨーロッパのデータは死亡率も出血も脳梗塞もやや多いように思います。
大動脈遮断部位の適正化や縫合閉鎖部の徹底強化を行っている私たちから見ると外科の成績はさらに上がるものと感じています。
もちろんどういう患者さんを手術するかで結果は異なりますから、その慎重な検討は重要ですが。
ともあれTAVRとAVRのうまい活用・使い分けで今後は治療成績がさらに改善し、患者さんにとって朗報となるでしょう。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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