二〇〇八年一〇月、名古屋に新たなハートセンターが立ちあがると、米田は副院長(心臓血管外科部長)に就任。スーパーバイザーという特別な立場ではなく、どっしりと腰を据えて、患者と向き合うこととなった。
彼に絶大な信頼を寄せる京都時代の患者たちにとっても、身体に何か大きな異変があった時、名古屋であれば行けない距離ではない。彼らも正式な「米田の手術再開」を心から喜んだであろう。
同院は、「患者様第一」という鈴木の理念を受け、
「患者様サイドに立った医療の実践」
「やさしいまごころのある医療の実現」
をスローガンに掲げている。
「『断らない、待たせない、温かい』が当院のモットーです。当たり前のことなのですが、現実には多くの病院でこれができていません」と米田は言う。
リスクマネジメントとして、複数の病気を抱えているような重症患者を断る大病院もあるという。助かる見込みが薄いのなら、最初から受け入れなければ、労力をかけなくてもすむし、その病院としての死亡率も上がらなくていいだろうというわけである。さらに付け加えると、手術の失敗などによる訴訟の心配もない。
だが、ハートセンターではそうした重症患者でも、二四時間体制で、断ることなく受け入れる。そして、その困難な病状に、医師、スタッフ、患者が一丸となって全力で立ち向かっていく。これが、米田の目指す「断らない」医療である。
リスクは高いが、積み上げてきた経験と実績もある。最大限の努力で可能な限り危険度を低くすることはできる。そのために、患者との信頼関係を築くことも欠かさない。
「どんな患者さんに対しても、インフォームドコンセントとして、データベースに基づいたリスクの説明を必ずします。手術をした場合としなかった場合の比較、ほかの医療施設との比較。この二本を軸に、手術する箇所以外にこれといった病気をもってない患者さんとの比較などです。また手術前は、心ゆくまで質問していただけるように、外来とは別に時間をとって無制限一本勝負でやります」
透析を受けていたり、糖尿病を患っていたりすれば、手術を受ける際の危険度は何倍にも増す。そのことを、本人(およびその家族)にしっかりと理解し、納得してもらった上で治療を行う。これは「温かい」医療にもつながってくる。
「待たせない」医療については、みなさんにも経験があるだろう。調子が優れないから病院へ行ったのに、一週間後にエコー検査、三週間後にCT検査、診断の結果は五週間後に外来で、というようなケースだ。
大学病院などの大きな施設では、複数の科との調整が必要なため仕方ないのかもしれないが、何度も行き来するのは実に不便だし、かなり先まで自分の病気が何なのかわからないということが何よりも不安だ。
その点、ハートセンターなら前もって相談しておけば、検査から医師による結果の説明まで、すべて一日で可能だ。患者にとっても、一カ月以上も待たされるより、その日に分かった方がいいに決まっている。
米田が京大ではできなかった、患者の側に立った三つの医療。名古屋ハートセンターで実践中だ。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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