この7月12日と13日に東京で日本冠動脈外科学会の学術集会がありました。
以前から楽しく勉強させていただいている学会でもあり、dutyもあって参加いたしました。
今回の会長は防衛医大心臓外科の前原正明先生で、学術集会のテーマは「チーム医療における冠動脈外科」でした。
プログラムの表紙を見た瞬間、納得いたしました。4機の航空自衛隊戦闘機の編隊飛行の写真で、かつてブルーインパルスと呼ばれた特殊チームで現在の名称は存じませんが、東京オリンピックの開会式で国立競技場の上空に五輪の輪を描いて一世を風靡した、あのチームの最近の写真です。
4機の機体がほとんど触れそうなほど近接して飛んでいるようすは、まさに高度の技術と4名のパイロットの厚い信頼、そしてそれを支えるチーム全体の素晴らしさを一目で実感させてくれるものでした。なにしろ4名のうちひとりでも、ほんの少し間違えれば接触して少なくとも2機は墜落する状態ですから。それが前原先生からのチーム医療へのメッセージでした。まさにお互いのいのちを預けるレベルの信頼関係ですね。
夕食会のときに、「先生のメッセージ、確かに頂きました」、とお伝えしたところ、満面の笑みを返して頂きました。
さて学術集会は盛況で、最近の冠動脈外科の復活を印象づけるようでした。
日本循環器学会の冠動脈治療のガイドラインで冠動脈バイパス手術が冠動脈の複雑病変の大半のケースでクラスIやIIaの適応、つまり前向きに勧められる治療法という位置づけが得られたのは最近のことですが、バイパス手術関係ののセッションでも元気が感じられました。
またハートチームが正式に提唱されるようになり、その中で循環器内科とくにPCIの先生方との協力が進めやすくなったことも大きいと思います。
心臓手術をめぐるチーム医療の中で、心臓外科医だけが疲弊している現実を打破するための特定看護師の制度が実現に近づいていること、その中で前原先生が尽力されていることを改めて認識し、日本もようやくここまで来たかと感嘆いたしました。
かつて留学中に欧米のすぐれたナースの制度、とくにPA (physician’s assistant)外科助手やNP (nursing practioner)の制度が素晴らしく、しかし日本では夢物語と思っていたのを想い出しました。
また外科が貢献しやすい領域でもある、虚血性僧帽弁閉鎖不全症のビデオシンポジウムは満員盛況で、名古屋ハートセンターからも発表ができ、私たちの新しい術式である乳頭筋適正化(papillary heads optimization)もそれなりの評価を得て、この領域に貢献できうれしく思いました。発表してくれた北村英樹先生、お疲れ様でした。
そのビデオシンポに先立って、テキサスの Dewey先生の講演で、私たちが考案した手術である腱索転位法(chordal translocation)を有用な方法として引用してくださり、地道が努力を知って頂いたことを光栄に思いました。
そのあと、腱索転位法の改良版ともいえるpaillary heads optimizationを紹介するとそれは使えそうだと評価していただき、自由に語り評価してくれる米国の良さをあらためて感じました。
また学会2日目のメインホールでのシンポジウム、心室中隔穿孔の外科治療では小原邦義先生とともに司会をさせて頂きました。名古屋ハートセンターから深谷俊介君が発表してくれ、私たちが開発し長年育ててきた Exclusion法、いわゆるDavid-Komeda法を標準治療として、新しい経右室法との比較を中心に熱い議論が交わされました。
それぞれの方法のメリットとデメリットをなるべくわかりやすく浮き彫りにし、今後の発展を期した議論を進めるよう、努力しました。
Exclusion法の弱点と言われた遺残シャントはほぼ解決の方向にあり、しかし経右室法もそれが適切と判断できるときに活用するという適材適所戦略をお示しできたことは幸いでした。
名古屋ハートセンターができてまもなく4年、こうした全国学会の目玉シンポにて複数の発表ができるようになったことをうれしく思います。日々、手術や治療内容を反省検討し、多くの仲間たちのご意見を頂きながら、ひたすら改良を加え、それが患者さんの幸福に直結するというのは、心臓外科医冥利につきることです。
その他にも、オタワのMarc Ruel先生のMICSでのオフポンプバイパス手術が紹介され、私も質問コメントなどさせて頂きましたが、内科と協力し、内科の先生方にも喜ばれるような心臓手術がさらに展開しそうで、満足の学術集会でした。
インド・ニューデリーのSudhir Srivastava先生のダビンチ・ロボットをもちいての完全内視鏡下、オフポンプバイパス手術も大変興味深く、ロボット手術もここまで来たかと感慨深いものがありました。
Srivastava先生にはインドの弁膜症サミットで講演したときにお世話になり、なつかしく思うとともに、インドの発展のすごさを見せて頂いたように感じます。
その他にも興味深い、内容あるセッションが多数ありましたが、これは省略します。
会長の前原先生、防衛医大の先生方、立派な学術集会のご成功、おめでとうございます。お疲れ様でした。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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