Mitral Conclave(僧帽弁形成術の国際シンポ)に参加して

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2012-09-15 20.04.17bこの9月15-16日と、軽井沢の万平ホテルという伝統と趣のある場所で行われたMitral ConclaveにFacultyとして参加して参りました。会長は慶応大学の四津良平先生で、昨年のアメリカ胸部外科学会AATSでのそれの日本版という予想でしたが、国際シンポジウムの名にふさわしい立派なものでした。

実際心臓外科関係ではニューヨークのAdams先生とAnyanwu先生、タイのTaweesak Chotivatanapong先生、Weerachai Nawarawong先生、Chaiyaroj先生、ベトナムのPhan Nguyen Van先生、シンガポールのCN Lee先生、循環器内科ではRandy Martin先生はじめ、おなじみの有名人がFacultyとして名を連ね、これまでの交流や理解が深められる素晴らしい場となりました。個人的にはどこか弁膜症愛好会の同窓会のような雰囲気でした。

このシンポに先立って、朝からステントレス僧帽弁(Normoノルモ弁)の特別セッションがありました。ウェットラボで実技指導を頂いて、これからの臨床応用と認定施設決定に役立てるための重要な会とあって、執刀医レベルの先生が集まり賑やかでした。私も名古屋ハートセンターでこのステントレス僧帽弁を始めるための施設認定のための準備として参加させて頂きました。2012-09-15 17.21.39b

開発者の加瀬川先生、そしてその仲間である榊原記念病院の高梨先生や田端先生らを始め多数の同好の士がわいわいと賑やかに手術を行いました。もちろん動物の心臓をもちいてのシュミレーションですが、細部にわたるコツや落とし穴がわかり、有意義でした。

私はたまたまご縁あって、大阪市立総合医療センターの実力派・柴田先生とペアを組んで一例執刀させていただきました。心臓手術自体も有意義でしたが、それ以上に柴田先生や加瀬川先生らとのDiscussionが面白く、あっという間に3時間が過ぎました。できあがりは一応合格点で、こうした練習や研究を積んで十分自家薬籠中のものとしてから患者さんに使うというのは大変良いことと思いました。

15日正午からMitral Conclaveが始まりました。

興味深い発表とDiscussionの連続でした。若い先生らには得難い勉強と刺激の場になったものと思います。上記の先生方が前向きに楽しい議論をしてくれるため、退屈することのないセッションが続きました。

私に与えられた仕事は午後の虚血性僧帽弁閉鎖不全症のセッションでの司会と講演でした。司会は畏友・神戸大学大北先生と一緒にやらせていただきました。

北海道大学の松居先生が乳頭筋を束ねて前方に吊り上げる術式が後方に吊り上げるよりずっと良いことを示され、東京医科歯科大学の荒井先生が乳頭筋の単独吊り上げが後方より前方が有効であることを発表されました。

前方吊り上げの効用をこの10年近く主張してきた私にとって、大変うれしいことでした。どういう術式が良いかは患者さんが教えてくれる、このことを心の支えに頑張ってきた甲斐があったと思いました。

私・米田正始は川崎医大の吉田教授らと共同研究してきた乳頭筋ヘッド最適化(略称PHO, Papillary Head Optimization)の術式を発表しました。多くの質問をいただき、これほど関心をもっていただいてうれしいことでした。大御所のAdams先生はじめ、上記の先生方がぜひ君の術式を使いたいと言って下さり、これまでの楽しい苦労が一層楽しいものになったような気がします。

外来でこのPHO術後の患者さんとよくお会いしますが、手術前の状態とくらべて大変お元気なお姿にジーンときます。一緒に苦労してくれてありがとう、今の健康はあなたが頑張って勝ち取ったものだよと言いたくなります。逆に患者さんのほうからたくさん御礼を述べていただき、一層ジーンときます。

このセッションではニューヨークのAnyanwu先生が新しいLVAS補助循環の活用も話されました。超重症で手術に耐える体力がない方や、心臓の余力があまりにも少ない患者さんたちにはLVASが役立つというのはこれまでも知っていたことですが、僧帽弁置換術後の左室破裂という稀でも恐ろしい合併症にLVASが大変有効であるというのはなるほどと膝をたたくインパクトがありました。これからはこうした超重症といいますか、どうにもならない患者さんにも救いの手が伸びるという実感を得られたことは大収穫でした。

2012-09-15 18.36.31b夜のディナーパーティでは多くの方々と歓談できました。高名な先生方はもちろん、日頃あまり話する機会のない、あちこちの若手中堅の先生方と話ができてうれしく思いました。自分が若いころ、海外の大物先生と話することがどれほど夢をかきたて、モチベーションを上げたかをふと思いだしました。

二日目の朝と午後には僧帽弁形成術の詳細・各論についての発表と議論が交わされました。ループテクニックという比較的初心者でもやりやすいと言われる方法がさまざまな形で論じられていました。それ自体は良いことと思うのですが、日本全国でも限られた数しかない僧帽弁形成術を、全国の心臓外科医が分け合ってやるとなると、不慣れな心臓外科医が年間数例ずつやる、という状況へつながりかねない話です。それは即、患者さんにとって不幸なこととなる、そういう懸念をもちました。実際、経験豊かな先生方も同じ心配をしていました。

それ以上に、このループテクニックでは僧帽弁の一か所を支えるために1対つまり2本の人工腱索がひつようで、たとえば前尖全体が逸脱している場合なら、私たちなら8-12本できれいに形成できるところを、その2倍の16-24本も人工腱索が立つことになります。これはもし腱索が硬化や肥厚をすると大問題になるでしょう。もっと議論が必要と感じました。

Adams先生の僧帽弁輪形成術つまりリングの講演はよく整理され、よくこなれていて、さすがと感心しました。

2012-09-16 12.46.47b2日目には三尖弁形成術や心房細動のセッションもありました。新田先生やChaiyaroj先生らのMICSメイズ手術は私たちもちからを入れている領域ですので興味深く拝聴しました。

三尖弁形成術で本当に難しいのは、右室機能不全が起こって三尖弁の弁尖が右室側へ引き込まれる、テザリングが起こる重症ケースです。Adams先生にそれを質問しましたが、さすがの彼もそういうケースは経験ないとのことで、彼の友人の経験談を話してくれました。正直で親切な人柄にあらためて感心しました。

もうひとつ感慨深かったことがあります。Adams先生の講演の中で、強い心不全をともなうケースでは右室と三尖弁輪が拡張しておれば三尖弁の逆流がそれほどでなくても、同時に治しておくことが良い、ヨーロッパ心臓協会の新しいガイドラインではそれはクラスIIaつまりやる意義があるという水準になった、というものでした。

このことは数年以上まえからエキスパートの中ではすでに知る人ぞ知る、方法でした。私は前任地の京大病院で必要があればこの方法で三尖弁形成術を加えていました。少しでも心機能を改善し、患者さんが永く生きられるように。

ところが前任地では、打ち合わせ会議と称する場で、ある心臓外科の先生が「米田先生は逆流があまりない弁まで形成している」と発言し、そのため「そんないい加減な適応で手術しているのか」と誤解する先生まで現れ、発言の機会さえ与えられず、心臓外科の臨床やEBMデータを知らない人たちは本当に困ったものだと、情けなくなりました。今、ヨーロッパの心臓協会がこの方法を正式に認めたというのは、ようやくお墨付きが出たわけで、自分がデータをもとに信じてやって来たことがようやく本筋の治療になったと、感慨深いものがありました。

まあ不勉強な人たちや悪意の人たちにわかってもらえなくても、患者さんや一流の人たちは理解してくれていると思えば、納得が行きます。そういう満足感が得られるセッションでした。それにしてもそうした大学病院はもはや最高学府とは言えないのではないかと残念に思いました。

もうひとつうれしかったのは、当院内科はもちろん、エコースペシャリストである川崎医大循環器内科の先生方と協力してやって来た、内科と外科のコラボレーションが、あのRandy Martin先生やAdams先生に喜んで頂けたことでした。来年の発表依頼まで頂いて、こちらも感動してしまいました。

それやこれやで忙しく賑やかな2日間でしたが、軽井沢を散策する暇もなく、しかし充実感を頂いて名古屋への帰途につきました。

素晴らしい会を開いて下さった四津先生はじめ慶応大学の先生方、国内外のFacultyの先生方、関係の皆様に深く感謝申し上げます。ありがとうございました。

平成24年9月16日

米田正始 拝

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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Comments

  1. *** says

    吹く風の涼しさに秋の訪れを感じます。
    このたびの僧帽弁形成術の国際シンポお疲れさまでございました。
    米田先生は患者のためにすぐれた治療の道をひらかれ、ますますご活躍のご様子、改めて先生への敬意を深くいたしております。
    また先日から米田先生ご出演のテレビビデオを拝見させていただきました。
    患者さんやご家族の笑顔がとてもいいですね。
    「病院と先生が一番!」と明快に話された若い患者さんとても印象的でございました。
    私ども家族も先生から救っていただき大変有り難く存じています。
    お忙しい毎日と思いますがお身体お大事に更なるご活躍を心よりお祈り申し上げます。