ミックス手術つまり低侵襲小切開手術はどちらかといえば若い元気な患者さんたちの、美容上の利点のために行われる印象があります。
もちろん安全性が確保される限り、そうした美容上のメリットも意義のあることと思います。
しかしそれにおとらず、痛みや苦痛を減らし、早く社会復帰・仕事復帰ができるミックス手術あるいは術後の運動・リハビリを促進して肺炎などの術後合併症を防ぐことで安全性を高めるのもミックス手術の利点と思います。
そのため私たちは合併症がおこりやすいと言われるご高齢の方にも安全性を確認しながらミックス手術を行っています。
患者さんは80歳男性で紀伊半島から来られました。私自身、時間があれば旅行したい素晴らしいところです。
10年前から大動脈弁閉鎖不全症と僧帽弁閉鎖不全症のため近くの病院へ通院しておられました。
農業を営んでおられ、
最近仕事のあとの疲れがひどくなったため、困って私の外来へ来られました。
実際、心臓のホルモンであるProBNPは2464もあり、
これは重症心不全のレベルでした。
同時に慢性の腎機能障害(CKD)もおありです。
心不全に対する利尿剤なども次第に使いづらくなってきていました。
中等度の僧帽弁閉鎖不全症、そして中等度の三尖弁閉鎖不全症(下図)があり、
左室拡張末期径LVDdも60mmを超え、左室駆出率も51%と低下傾向にあり、
ガイドラインでも手術の適応に入っていました。
また早く農業に復帰して戴くためもあり、
そして肺炎などの合併症を防ぐためにミックス法で3弁の手術をすることになりました。
この患者さんの場合は、3弁すべてを治す大きな手術でしたので、右小開胸によるポートアクセス法ではなく、胸骨下部部分切開という胸骨の一部だけ切る方法をもちいました。
生体弁をもちいて僧帽弁置換術ついで大動脈弁置換術を行い、
心臓を動かしつつ三尖弁形成術を行いました。
ミックス法では視野が多少狭くなり、時間がかかることが多いのですが、
心臓を止める時間が長くならぬように工夫しました。
手術はスムースに終わり、
手術翌日には集中治療室を退室し、一般病棟へもどられました。
その 後も経過良好で、通院に時間がかかる遠方のため、十分元気がでてから退院して戴こうという方針にて、
術後3週間あまり入院してリハビリなどを行っていただき、元気に退院されました。
退院時のレントゲン写真でも心臓はすでに小さくなり肺もうっ血が取れてきれいになっておられました。
80歳というご年齢でこれだけの回復はご本人様やご家族の努力と姿勢の賜物ですが、
痛みが少ないミックス手術も一役買ったのであればうれしいことです。
この患者さんの場合は美容よりも安全重視のため、皮膚切開は思い切りは小さくありませんが、それでも通常よりかなり小さく、夏に畑で半そでシャツを着ていただいても、創がそれほど目立たない程度になったものと思います。
外来でもお元気で、
今は真冬ですが、春になれば農作業も順次楽しくこなして頂けるものと期待しています。
心臓手術とは単に生きるだけのために行うものでなく、
前向きに、元気に建設的に生きるためにも行うものと私は考えています。
こうした考えを共有して下さる患者さんが増え、
その分さらに安全性を追求し、ご希望にお応えしたくチーム全員で思っています。
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ミックスは危険なの?
術後の痛み軽減について
社会復帰が早いわけは?
美容について
胸骨「下部」部分切開法とは
ビデオ 連合弁膜症のご高齢患者さんへのミックス法・3弁手術
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お便り72: 二弁置換とメイズ手術をミックス法で受けた患者さん
お便り73: リウマチ性連合弁膜症と心房細動をミックス法手術で克服
お便り74: ポートで弁形成とメイズ手術を受けた患者さん
お便り78: ベントール手術をミックスで受けられた患者さん
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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