事例:肝硬変を合併する三尖弁閉鎖不全症にミックス法三尖弁形成術

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三尖弁閉鎖不全症(略称TR)は高度かつ長期間になると肝臓のうっ血から肝硬変を引き起こします。

こうなると心不全だけでなく肝不全となり命を落としてしまいます。

三尖弁閉鎖不全症だけだからと内科の先生が放置した結果、気が付いたときにはすでにDICという全身が危険な状態で出血のため手術もできなくなっていたという不幸なケースを聞いたこともあります。

油断してはならない病気なのです。


術前SevereTR患者さんは大阪から来られた80歳近い男性で、10年前に近くの大学病院で高度の三尖弁閉鎖不全症と心房細動と診断され、薬などで治療されていました。

4か月前から急に息切れが強くなり、手術が必要だが危険だと言われて私の外来へ来られました。

術前SeverePH度の三尖弁閉鎖不全症(TR)があり、その背景に左室の強い拡張機能障害つまり左室壁が硬くなって、血液を入れ込むべき拡張期に血液を取り込みにくくなる、吸い込みにくくなる状態がありました。そのために血圧と同じほどの、高度の肺高血圧症もありました。

心臓のホルモンであるProBNPは3170と極めて高くなり、重い心不全の所見でした。

心臓と肝臓さらに調べますとチャイルド分類Aの肝硬変を合併していました。コリンエステラーゼChEは148と低下し、内蔵うっ血のため血小板は9.3万、ヘマトクリットも25.5とかなり少なくなっていました。CTで肝臓は縮小気味でした。さらに悪いことにクレアチニンCr 1.45と腎臓も弱っている、いわゆるCKD状態でした。

そこで私たちの方法をもちいて、まず入院していただき、たっぷり時間と手間をかけて心臓や肝臓のうっ血を軽減するようにしました。

努力の結果、6週間後には肝臓も少し落ち着き、水分が取れて体重も軽くなり、上記の肺高血圧も血圧の半分ぐらいまで改善し、全身状態も改善したため、このベストタTAP後イミングで手術しました。

患者さんのからだへの負担を最小限とするため、ポートアクセス法という右胸に小さい創をひとつつけるだけの、患者さんにやさしい手術法でアプローチし、三尖弁形成術を行いました。

三尖弁だけの手術で、かつ安全性を高めるため、心臓を止めずに動かしたまま三尖弁形成術を行いました。

術後経過は順調で、翌朝には集中治療室ICUを出ることができました。心配された肝機能もまずまずよく持ちこたえ、総ビリルビンも4弱で治まり、あとは正常化して行きました。自然のペースメー 術後TR軽快カーが弱く、術後は心房細動は取れて正常リズムにはなりましたが、徐脈(脈拍が遅いこと)のため、術後2週間でペースメーカーを入れて改善安定しました。

遠方でかつ重症であることを考慮し、術後3週間入院治療を行い、それから元気に退院されました。

比較的ご高齢で肝臓も腎臓も弱っている状態でも心臓手術に耐えられることを示して下さったと思います。外来でお会いするのが楽しみです。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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