心臓腫瘍の大半は粘液腫で、中年期以後はその多くが良性腫瘍です。
まれに心臓原発の悪性腫瘍が見られます。
悪性腫瘍の場合、極力完全切除することが長期間生きるために必要です。
そのためには心臓をしっかりと再建する技術が求められます。
下記の患者さんは3か月前、呼吸苦と前胸部圧痛のため近くの大学病院を受診されました。
そこで心臓腫瘍の診断を受けました。
心臓の周りに多量の水が貯まっていましたが、そこからは悪性腫瘍細胞は検出できませんでした。
MRIやCT検査で体の他の部位にとくにがんらしきものはありませんでした。
消化管や子宮・卵巣にも問題なく、PET-CTで心臓の悪性腫瘍の疑いとなりました。
造影CTと心エコーで右房腫瘍が確認され、その範囲は上は上大静脈の洞房結節の一部を巻き込んでいるものの、下大静脈や右冠動脈までは進展していない、というものでした。
こうした結果を踏まえて、専門家の手術を受けたいと、米田正始の外来へ来られました。
最終的には実際に胸を開けて右房腫瘍を見てからの判断になると考えられましたが、根治性つまり完全切除できるなら腫瘍の全摘除と右房再建を、完全切除ができないときには腫瘍摘除か心膜開窓術というおよその方針を確認しました。
また心臓手術のあとで抗がん剤や放射線治療になる可能性を考え、できるだけ早く創が治り体力が回復するようにミックス法で手術することにしました。
さらに、もしもあまり永く生きられないという状況になったとしても、その間、できるだけ苦痛が少なく楽しく有意義に暮らせるようにとの気持ちもあってミックス法を選びました。
この患者さんの場合は右開胸のミックスつまりポートアクセス法は少々無理があると判断し、胸骨下部部分切開による方法を選びました。
こうして小さい創で心臓に達しました。
右房全体が腫瘍で充満する形でしたが、心膜との癒着は右側だけで、この部は心膜も切除して、万一そこにがん細胞がいても困らないようにしました。
予想どおり洞房結節の一部までがんにやられていましたので、この結節の一部も切除しました。
下大静脈のところも無事に腫瘍全摘除できました。
右冠動脈にも問題なく、ただしその近くまで右房壁をほぼ全部取る形で腫瘍摘除しました。
右心耳のところだけ腫瘍がなく、この部は温存できました。これはあとで心臓ホルモン(利尿ホルモン)を出してくれるので、術後の心不全を予防できて幸いでした。
腫瘍を肉眼的には全摘除できましたが、念のため、冷凍凝固で見えない癌細胞がもし残っていてもこれを死滅させるようにしました。
それからウシ心膜をもちいて右房を再建というよりあらたに造りなおすようにしました。
術後経過は良好で、手術翌日、一般病棟へもどられ、術後10日で元気に退院されました。創の痛みも少なそうでした。
切除標本の検査の結果は、血管肉腫という、ある種のがんでした。
前もって打ち合わせどおり、近くの大学病院のがん専門の先生に集学治療を行って頂いています。
これまでのところ、転移も再発もなく、経過良好です。
ぜひがんばって根治し、元気に永く暮らして頂きたく思っています。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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