バルサルバ洞(右図の「バ洞」のところです)は大動脈のいちばん根っこの部分、大動脈基部にあるふくろ状の構造物で、これが弱くなり膨らんで瘤(りゅう、こぶのこと)になりますと隣接する右房や右室に破れることがあります。
いわゆるバルサルバ洞破裂というものです。
とつぜん血液が多量に右房か右室へ流れ込むため、すぐに肺がうっ血し苦しくなります。酷い時には倒れてしまいます。いのちの危険があることもあります。
治療法は手術でこのやぶれたバルサルバ洞を修復することです。
心室中隔欠損症を伴っている場合はこれを閉じてバルサルバ洞を守るようにします。
さて患者さんは20代の男性で大阪から来られました。
その2か月まえにこのバルサルバ洞の破裂に対して現地の病院にて緊急手術を受けられました。
術後まもなくバルサルバ洞が再破裂し、このままではどうにもならなくなって私の外来に来られました。
エコーで見ますと、バルサルバ洞が再破裂しており、しかも右房と右室の両方に血液が噴射されていました(写真右)。
このままでは心不全が進行し、いのちにもかかわってくるため、再手術することになりました。
前回の手術から2か月ほどしか経っていないため、癒着が高度で、ひとつ間違うと大出血する状況でした。
そこで丁寧に癒着を剥離し、心臓の全貌が見えました。
ここで体外循環を回し、心臓を止めてから右房と大動脈を開けて中を見ました。
前回の手術ではバルサルバ洞瘤が破れたところを大動脈側からと右房側からの両方で糸で閉じてありました(写真左)。
しかし残念ながら、瘤のところを縫われていたため、その組織が大変弱く、せっかく縫ったところがちぎれて穴が開いていました。
これでは血液がまた漏れて、瘤破裂の再発です。
瘤でない、しっかりとした組織を縫ってバルサルバ洞を守りつつ穴をふさぐことが大切です。
そこで私たちがいつも大動脈基部で行っているデービッド手術の要領で、大動脈弁輪に糸をかけ、そこへウシ心膜を縫着してバルサルバ洞を内側からガードし、あわせて血液の漏れを消すようにしました(写真右)。
同様に右房側からも前回の瘤を閉じたところを、もう少し遠巻きにして、三尖弁輪などのしっかりした組織を活用でして、右房側のバルサルバの破裂口をしっかりとふさぎました。
術後経過は順調で、手術翌日には集中治療室ICUを退室され、一般病棟へ戻られました。
術後エコーでバルサルバ洞の穴はきれいに取れ、正常の血流にもどっていました。
やや遠方からお越しのため、通常よりじっくり入院期間をおきましたが、13日目に元気に退院されました。
その後も外来でお元気なお顔をみせて下さいます。
手術後1年の心エコー検査でもバルサルバ洞はきれいで、血液の漏れもゼロで正常、心臓の大きさや形、パワーも正常でよろこんで頂けました。
これから自信をもって普通の生活を、スポーツなども含めて楽しんで頂ければと思います。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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