先天性つまり生まれたときからの僧帽弁閉鎖不全症は心臓専門病院では少なからずみられる病気です。
逆流が強くなり心臓とくに左室が大きくなったり、心不全の症状がでると手術が必要になります。
また時間とともに左房も大きくなり、その結果心房細動などの不整脈が出てくると手術が勧められることもあります。
次の患者さんは当時31歳の女性で、僧帽弁閉鎖不全症に発作性心房細動を合併し、手術を希望して来院されました。
そのころ、疲れやすくなり、会社の健康診断で僧帽弁閉鎖不全症を指摘され、ホームページを見て米田正始の外来へ来られたのでした。
術前の経胸壁エコーでも術中経食エコーでも前尖後尖とも全体的に逸脱しているように見えたため(右図をご覧ください)、
そして強い僧帽弁の逆流も、逆流ジェットが複数ある(左図)ことから複数病変それも通常と少しちがうものなど、様々な状 況と対策を考えて手術に臨みました。
皮膚をなるべく小さく切開し、心臓にアプローチしました。今ならポートアクセス法などのミックス手術でより小さい創で手術するでしょうが、当時としてはかなり小さい創で手術しました。
僧帽弁は後尖の中央部分にクレフトつまり裂隙があり先天性のものと思われました。
さらに後尖の後交連近くに腱索断裂があり、その部分は逸脱つまり左房に落ち込む傾向にありました。
また後交連部は大きめで腱索伸展著明で逸脱していました。(手術写真準備中です)
前尖はやや逸脱傾向はありながら、後尖の上記以外の部位とはちょうどバランスが取れた形でした(つまりどちらもやや逸脱傾向にありました)。
前尖と後尖の逸脱部は慢性MRのジェットのためか肥厚し、後尖の逸脱部は若干瘤化していました。
全体としていわゆるBarlow症候群つまり組織変性が強い弁で僧帽弁全体が弱いという印象でした。
こうした弁でも逆流が治れば長持ちし得ることが知られており、予定どおり全力あげて形成することに致しました。
まず確実に病変がある後尖中央部のクレフト部を閉鎖し、その際に余剰組織を併せて縫縮しました。
次に後交連部と後尖の後交連寄り部分を連結し、併せて余剰(瘤化)組織を縫縮しました。
この時点で逆流試験を行いますと前尖後尖はちょうどバランス良くかみ合い、逆流もほぼ消失しました。人工腱索も検討していたのですが不要でした。
そこで仕上げに前尖サイズのリングで弁輪形成を行いました。
それにより逆流試験でMRはほぼ消失しました。
冷凍凝固によるメイズ手術を行い、左房を2層に閉じて78分で大動脈遮断を解除しました。
心臓が拍動を再開しまもなく洞性リズムを回復しました。
入念な止血ののち無輸血にて手術を終えました。右図は術後1週間の経胸壁ドップラーで僧帽弁の逆流は消失していました。
また下図は同長軸エコーで前尖と後尖の良好なかみ合わせを示します。
術後経過は良好で、出血も少なく血行動態も安定しており、術当日の夕方、人工呼吸器を外し、術翌朝、一般病棟へ戻られました。
経過良好で手術後10日に退院予定でしたが、患者さんのお父さんが風邪のため、移されないようしばし入院続行し、術後経2週間で元気に退院されました。
術後3年経った現在、お元気で暮らしておられます。年一度の定期健診でお元気なお顔を見せて頂いています。
右図は術後3年のドップラーで僧帽弁の逆流はありません。
弁置換術と比べて弁形成術が優れているのはどの年代の患者さんでもそうですが、こうした若い女性の場合はとくにそれが顕著です。
この患者さんは妊娠出産も問題なくこなせますし、今後の人生が文字通り健康なものになるでしょう。実際、手術のあとは大変快活になられ、この点でもうれしく思っています。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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**** says
立春大吉 おかげさまにて術後四年を迎え忙しく元気に暮らしています。
私が四年前心臓の弁の手術を希望したのは早く健康になりたいと心底願ったからです。
術後は年々に元気になり、子どもの頃のスポーツ好きの自分を思い出し、とてもうれしいです。
今夜は春の始まりを祝って自家製梅酒で乾杯します。
米田先生そして病院の看護士関係者のみなさまありがとうございました。