最終更新日 2020年2月25日
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◼️上行大動脈の石灰化は危険信号
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大動脈とくに上行大動脈の石灰化は心臓外科医にとって頭痛の種でした。
というのは心臓手術を行うときに、上行大動脈を遮断する必要があり、もし大動脈の石灰化がそこにあれば、石灰は割れて飛び散るおそれがあるからです。飛び散れば、もしそれが脳に流れていけば、脳卒中とくに脳梗塞になるのです。
そうなるとせっかく心臓をきれいに治しても手術は空しいものになってしまいます。
これまでそうした患者さんに対してはいくつかの対策を立てて、それなりに対処して来ました。しかしそれぞれ弱点があり、私たちは満足していませんでした。
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◼️これまでの石灰化大動脈に対する対策は
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1.大動脈を遮断せず、心臓をVFつまり心室細動の状態にして素早く手術を行う
2.およそ22度前後の低体温にして、短時間の循環停止のもと、上行大動脈を人工血管で置換し、それ以後はその人工血管を遮断する
の2つが主でした。
しかし1.は心臓の保護にやや弱く、とくに大動脈弁の手術には使えないという問題があります。
2.は本格的すぎて時間がややかかり過ぎ、患者さんのからだへの負担が大きいという問題がありました。
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◼️上行大動脈石灰化に対する第三の対策は
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これらの経験の中から、現在多用している方法は
3.体温を26-28℃程度まで下げておき、そこで一時循環を停止。ただちに大動脈を開けて内側にある内膜の硬いところをはぎとり、きれいに治してからすぐ大動脈を閉じて循環を再開する。
これなら1.や2.の欠点がかなり解消できます。
もちろん現在も、必要があり利点があれば1.や2.を活用することもあります。
さらに1.の発展型として、血液のカリウムを高くしてVFではなく心停止を誘導し、そこで心内操作を行うということもあります。これは主に僧帽弁操作と三尖弁操作に対してもちいます。1.と比べて心機能を守るというメリットが多いという印象です。
要はその患者さんにぴったりした方法を選んで活用するわけです。
上行大動脈の石灰化は基本的に治せる状態なのです。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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