これは左房が僧帽弁の逆流のため拡張するためもあって起こります。
左房が巨大となると僧帽弁を治しても心房細動は治りません。
心房細動に対するもっとも強力な治療法といわれるメイズ手術も巨大左房には歯が立ちません。いわゆる「適応なし」として手術をやれないのです。
これを何とかしようと心房縮小メイズ手術を10年以上まえに開発しました。
患者さんは50歳女性です。
20年前から僧帽弁閉鎖不全症を指摘され他院で経過観察されていました。
5年前から心房細動になり、1年前から心不全症状が出てきました。
心エコーにて高度の僧帽弁閉鎖不全症を認めるほか、
左房径(前後径)が76mmと巨大左房になっていました。
上図左は経食エコーで拡張左房を示します。同右では僧帽弁後尖の逸脱(弁が左房側へ落ち込む)を示します。
左室拡張末期径は58mmとやや拡張、左室駆出率は53%とやや低下していました。
心房細動にメイズ手術が効くことは知られていますが、いっぱんに左房径が60mm前後を超えたあたりから、メイズ手術はあまり有効でなくなり、ましてカテーテルアブレーションでは治せないと言われています。
そこでこうした患者さんたちのために私たちが開発した心房縮小メイズ手術をもちいることにしました。
まず僧帽弁形成術を行いました。
逸脱している後尖を四角切除し、リングをもちいて弁のサイズを正常 化し、逆流が止まることを確認しました。
それから左房を縫縮つまり折りたたむ形で小さくしました。これで出血することなく左房を調整できるからです。
バチスタ先生がかつて提唱された自己移植術とほぼ同じ縫合線で左房を折りたたみ、きれいになりました。
そのうえで、その縫合線を冷凍凝固し、悪い電気信号が通らないようにしました。
三尖弁も形成し、 右心房にも冷凍凝固でメイズ手術を行いました。
術後経過は順調で、術中から正常リズムとなり、術後3年以上経過した外来でも正常リズムを維持しておられました。
術後心エコーでは僧帽弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不 全症とも消失し、左房径は術前の76mmから46mmまで改善しほぼ正常域にもどっていました。
この症例は2005年 のライプチヒシンポジウムでも発表し、多くの心臓外科医に喜ばれました。
その後、欧米やアジアでもこの心房縮小メイズ手術に関心を持って下さる心臓外科医は徐々に増え、これからもっと啓蒙活動をしてより多くの心房細動の患者さんたちをお助けできればと念じています。
心房細動は意外に怖い、いのちや仕事を奪う恐れのある病気だからです。
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僧帽弁膜症のリンク
① 原因
◆ 閉鎖不全症
◆ 逸脱症
② 弁形成術
◆ ミックスによるもの
◆ ポートアクセス手術のMICS中での位置づけ
◆ リング
◆ バーロー症候群
④ 弁置換術
⑤ 人工弁
◆ 機械弁
◆ 生体弁
◆ ステントレス僧帽弁: ブログ記事で紹介
⑥ 心房細動 :
◆ メイズ手術
◆ ミックスによるもの:
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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