事例: 急性大動脈解離で緊急手術

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急性大動脈解離は大動脈の壁が内外に裂けておこる病気です。

このなかでスタンフォード分類A型とよばれる上行大動脈が解離するタイプは緊急で手術しなければ発症2日間で患者さんの約半数が亡くなるという大変な病気です。

慣れたチームなら緊急手術することで 95%以上の確率で治すことができ、的確な治療がいかに大切かがわかる病気です。

以下の事例は57歳女性で、急性大動脈解離(スタンフォードA型)に大動脈弁閉鎖不全症を合併し、危険な状態になっていたため近くの病院から緊急搬送されました。

心膜切開後の所見手術にて心膜を切開したところ、心のう内には血液はありませんでした(左図)。

上行大動脈が解離して太くなり、かつ表面が赤黒くなり破れる寸前の状態であることがわかります。

手術開始直前の血圧低下はおそらく解離した上行大動脈がSVCを圧迫していたためと推察しました。

解離は弓部大動脈から大動脈基部近くまで見られました。

Ao切開体外循環を開始しました。体温が21℃まで低下したところで循環停止としました。

上行大動脈を横切開しました(右図)。

エントリーらしいものを切開部付近に認めた以外は末梢側・中枢側とも内膜は大丈夫でした。

 

GRF糊注入上行大動脈遠位部を近位弓部大動脈まで切除し、

外膜と内膜をGRF糊(のり)で固めたあと(写真左)、

ダクロンヘマシールド人工血管24mmを吻合しました(写真下右)。  遠位部吻合チェック

エア抜きののち、22分で循環停止を完了し、通常の体外循環に復しました。

 

吻合部の止血確認・補強ののち、大動脈基部を剥離・トリミングしました。

AVP大動脈基部は無冠尖NCCと右冠尖RCCを中心に解離していたため、GRF糊を用いて解離部を固定し、さらに各交連部をすべて吊り上げ固定して解離やARの進展を防ぐようにしました(写真左)。

その 中枢側吻合上で上記のダクロン人工血管を縫合しました(写真下右)。

 63分で大動脈遮断を解除し、105分で体外循環を容易にカテコラミンなしで離脱しました。

 

十分な止 完成図血ののち手術を明け方に終えました(写真左)。

術後経過は順調で、手術翌日には集中治療室を元気に退室され、10日後には退院されました。

手術から4年経つ現在も、ときどき定期健診のため外来へ来られます。

お元気なお顔を拝見するたびに、急性解離は患者さんが生きているうちに熟練チームでしっかり治すことが大切と実感します。


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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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