成人先天性心疾患つまり生まれつきの心臓病をもった成人の患者さんの場合は、もとの心臓病と、加齢にともなって発生あるいは二次的に合併した病気の両方を考えて治療に臨むことが大切です。
患者さんは80歳代半ばの女性。
つよい息切れで安静にしていても苦しくなりかかりつけ医を受診されました。
高度の心不全と心雑音もあるため私の外来へ紹介されました。遠方の長野県からお越し下さいました。
心エコーにて心室中隔欠損症(略称VSD)と僧帽弁閉鎖不全症が高度にあることがわかり(左図にて両方が見えています)、
Pro-BNPという心臓のホルモン上昇傾向で、なにより起坐呼吸という高度の心不全症状が取れないため手術することになりました。
ちなみにエコーでの左室拡張末期径は51mmと小柄な体格を考えると左室もかなり大きくなっておられました。
かなりリスクつまり危険性が高い状態で、手術しないのもひとつの手であるという意見さえ聞かれました。
しかし私の信念として、このまま座して死を待つ患者さんなら、手術で助かる可能性がある以上は見捨ててはいけないと考え、手術を決断しました。
心臓手術ではまず肺動脈を切り開き、右室の中を調べますと直径4mmの心室中隔欠損症VSDを認めました。
これをゴアテックスのパッチで閉じました(写真右の白いものがパッチです)。
その際に心房中隔欠損症ASDの小さいものも見つかったため、これを閉鎖しました。
さらに左房を開き、僧帽弁を調べました。
僧帽弁はバーロー病(Barlow病)という、弁全体がもこもこと変性したタイプで、一般に弁形成は難しいといわれるタイプでした(写真左)。
私たちはバーロー病の弁形成にはちからを入れており、ほとんどの患者さんで僧帽弁形成術を成功させていますが、この患者さんは80代半ばとご高齢で、手術前の状態が悪い ことから、ごく短時間で決めるほうが患者さんにとって安全上有利という方針から、迷うことなく生体弁で僧帽弁置換術を行いました(写真右)。
もう少し若い患者さんなら弁形成がながもちし有利ですが、80代半ばなら生体弁は20年は持つと予想されるため、耐久性でも十分、それなら早く確実に手術を完成できる弁置換が患者さんのためになるというわけです。
その甲斐あって、手術当日には人工呼吸を離脱し、手術翌日には集中治療室を無事に退室されました。
体力がひどく落ちておられたため、十分な運動を行い、術後1か月で元気に退院されました。
いまも定期健診に外来へ来られ、お元気なお顔を拝見しています。
高齢者でしかも複数の心臓病があり、状態も悪くて「もうダメ」と言われても経験豊富なエキスパートに相談すれば道が拓けるかも知れないことを皆さんに知って頂ければ幸いです。
弁膜症のトップページにもどる
心臓手術のお問い合わせはこちらへ
患者さんからのお便りのページへ
僧帽弁膜症のリンク
① 原因
◆ 閉鎖不全症
◆ 逸脱症
◆ 狭窄症
◆ リウマチ性
◆ HOCM(IHSS)にともなうもの
② 弁形成術
◆ ミックスによるもの
◆ ポートアクセス手術のMICS中での位置づけ
◆ リング
◆ バーロー症候群
◆ 交連切開術
◆ 両弁尖形成法(Bileaflet Optimization)
◆ 乳頭筋最適化手術(Papillary Head Optimization PHO)
④ 僧帽弁置換術
⑤ 人工弁
◆ 機械弁
◆ 生体弁
◆ ステントレス僧帽弁: ブログ記事で紹介
⑥ 心房細動 :
◆ メイズ手術
◆ ミックスによるもの:
先天性心疾患 (成人期)
1) 先天性心疾患について
2b) 僧帽弁疾患
■ ミックス手術(MICS、低侵襲小切開手術、ポートアクセス)による僧帽弁形成術や僧帽弁置換術
5) 心室中隔欠損症(VSD)
◆心室中隔欠損症に対するミックス手術(MICS手術):
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。