僧帽弁閉鎖不全症は時間が経つと左房が大きくなり、酷い場合には巨大左房となります。
そうなると心房細動は必発ですし、血栓ができやすく、脳梗塞の危険性が高まります。
原因である僧帽弁閉鎖不全症をそうなるまでに治すことが一番患者さんの安全に役立ち、実際ガイドラインでもそれが推奨されています。
以下の患者さんはそうした状態に僧帽弁形成術と心房縮小メイズ手術などを行い、お元気になられたケースです。
患者さんは68歳女性です。
僧帽弁閉鎖不全症MR、三尖弁閉鎖不全症TR、巨大左房と慢性心房細動AF、慢性肝炎・血小板減少症を患っておられ、結構重症の弁膜症です。
通常の医学常識ではこうしたケースの心房細動は手術でも治せないことになっています。
手術では 、まず僧帽弁は前尖の左側A1、前尖の中ほどA2が逸脱していました(写真右)。
その他の腱索も伸展していました。
まず僧帽弁輪形成術の糸をかけて視野を確保しました。
ついでゴアテックス人工腱索を前乳頭筋先端に4本かけ、これを前尖のA1部にほぼ均等につけました。
さらに同人工腱索2本をA2部にかけ、これは後乳頭筋先端にかけました。
右図はその操作中の様子です。
ここでいったん方向を変え、まずリングをつけて僧帽弁輪形成術を行いました。
左図はそのリングが入ったところです。
左房の拡張が顕著です。
左図でリング(白い色のバンド状のもの)の下側がお鏡餅のようにたるんでいるのが、拡張左房の壁なのです。
そこで拡張している左房を縫縮縮小しました。
右図がその様子です。上図のお鏡餅のようなものがぺしゃんこになり、左房が小さくなたことがわかります。
左房を小さくでき、さらにカテーテルでは焼きづらいところまでしっかり焼ける(といっても温度は60℃程度で麻酔もあって痛みはありませんが)、
これが手術の良いところです。
なお左心耳は内側から閉鎖しました。
その 上でリングを僧帽弁輪に縫着した糸を結紮ししっかりと固定しました。
逆流テストにて僧帽弁の逸脱や逆流がないことを確認しました。
右図です。僧帽弁がしっかりと張って、しかも水の漏れがないのが見えます。
さらに心拍動下に右房をメイズ切開(房室間溝にほぼ垂直)し、右房メイズを施行しました。
三尖弁は強く拡張(写真左)していたため、
リング28mmで三尖弁輪形成を行いました(写真右、その中央の紐状のものがリ ングです)。
右房を縮小縫合閉鎖しました。
体外循環からの離脱は心房ペーシング下にカテコラミンなしで容易にできました。
経食エコーにて良好な僧帽弁および三尖弁機能と、良好な心機能を確認しました。
心房の運動性もかなり回復していました。止血には平素より時間をかけ、そののち手術を終えました。
術後経過はおおむね順調でした。もともと出血傾向があったため止血に努力しました。
手術翌日に集中治療室を無事退室し、運動療法を進めつつ、不整脈の治療と安定に時間をかけ、1か月後に元気に退院されました。
あれから4年が経ちますが、外来でお元気なお顔を見せて頂けるのが何よりです。
僧帽弁、三尖弁とも良好ですが、
リズムも正常リズムで、よろこんで頂けました。何しろ通常のメイズ手術では治せないタイプの心房細動だったのですから。
重症ほど弁形成の意義は大きく、弁形成するならこうした強化型メイズ手術の意義が大きくなります。
心房縮小メイズ手術は一部の欧米施設では活用されていますが、日本ではまだまだこれからで、さらに磨いて啓蒙もしたく思います。
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僧帽弁膜症のリンク
① 原 因
◆ 閉鎖不全症
◆ 逸脱症
◆ リウマチ性
② 弁形成術
◆ ミックスによるもの
◆ ポートアクセス手術のMICS中での位置づけ
◆ リング
◆ バーロー症候群
④ 弁置換術
⑤ 人工弁
◆ 機械弁
◆ 生体弁
◆ ステントレス僧帽弁: ブログ記事で紹介
⑥ 心房細動 :
◆ メイズ手術
◆ ミックスによるもの:
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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