患者さんは70代後半の女性で九州南部から来られました。
心房中隔欠損症(ASD)が悪化し末期状態で、高度の肺高血圧症(血圧の70%)と三尖弁閉鎖不全症や慢性心房細動を合併し、右心不全のため肝臓も弱り血小板も減っていました。肺も弱く、肺活量は本来の半分以下の量にまで減っていました。
地元の大病院では心臓手術は危険すぎる、お薬で様子を見るしかないとのことでした。
それはすなわち、打つ手なし、ただ死を待つのみ、という意味でした。
患者さんのご子息は内科の先生で、お母様をなんとか助けようと調べ、私のところへご連絡を取ってこられました。
私の外来には九州・沖縄からもちょくちょく患者さんが来て下さいますが、それほど信頼して戴いたことを光栄に思いますし、来て良かったと言って頂けるよう、襟を正して頑張るきもちがこみあげてきます。
この患者さんの場合も何とか元気に九州へ戻って頂こうと努力しました。
まず調べた結果、肺高血圧症は重症でしたが左―右シャントが多量にあり、条件によって肺動脈圧も改善することがわかり、手術が成り立つことが判明しました。
さらに手術によって体力とくに心臓や肝臓や肺のちからは落ちていましたが、それぞれまだ回復の余地を残していること、とくに心臓のパワーアップが手術で図れればあとはうまく上昇気流に乗れると確信しました。肺については手術のあとじっくりと運動療法をやるしかないと開き直っていました。
そこで手術を行いました。
左図はそのときの情景です。
心房細動対策を確実にするため左心耳を閉鎖しました。
あの天皇陛下の手術のときに左心耳を閉鎖されたのと同じコンセプトで、血栓ができたり脳梗塞になるのはぜひとも防ぎたいという方針でした。
ついで心房中隔欠損症( ASD)をゴアテックスパッチで閉鎖しました。
右図の白いものがそのパッチです。
さらに三尖弁形成術をリングをもちいて行い、逆流がほぼゼロになるのを確認しました。
左下図はそのリングに糸をかけているところです。
右下図のように、キモになるところをしっかりと冷凍凝固して、悪い電気信号が通らないようにしました。
術後経過はまずまずで術翌日には集中治療室をでることができました。
しかし肺が悪く、すぐひしゃげて無気肺と呼ばれる状態になり、呼吸リハビリにじっくりと時間をかけ、お元気に退院されました。
あれから4年近くがたちますが、お元気に暮らしておられ、うれしいことです。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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