事例: 肝臓がん術後の大動脈弁狭窄症

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大動脈弁狭窄症は年齢とともに増加する疾患で、なかでも80歳を超えると急増します。

患者さんは77歳男性で、肝臓がんのため東京の大手大学病院で手術治療を受け、安定したのもつかの間、今度は大動脈弁狭窄症が発生し、運動時に息切れがしたり動悸が起こるようになり、米田正始の外来へ来られました。

持病として気管支拡張症も合併していましたので対策を立てて進みました。

適応のため心臓手術を行いました。

全身麻酔下に

川瀬 A弁b胸骨正中切開、心膜切開で心臓にアプローチしました。

体外循環・大動脈遮断下に上行大動脈を横切開しました。

大動脈弁は3尖で右冠尖RCCと無冠尖NCCがやや小さい形でした(写真右)。

これほど硬くなりますと、弁尖の先端、つまり弁の中央部がボールペンの先ほどしか開かなくなります。

川瀬 切除A弁b肥厚・硬化・石灰化は著明でした。

弁尖と石灰を摘除しました(写真左)。

ウシ生体弁19mm(通常の生体弁の23mm相当)を縫着しました。

右下がその挿入中の写真です川瀬 マグナ弁が入るところ

生体弁の弁尖(弁のひらひら動く部分)とくにその先端を触らないように注意しています。

体外循環をカテコラミ ン(強心剤)なしで容易に離脱しました。

左下写真は生体弁が入ったところ、大動脈弁置換術の仕上がり状態です。

写真の川瀬 AVR完成生体弁のつのの部分まで弁尖は開きます。手術前よりはるかに大きく開くことがわかります。

経食エコーに良好な人工弁と心機能を確認しました。
C型肝炎のためもあってか、出血傾向が認められたため、入念な止血ののち手術を行いました。

術後経過はおおむね順調で、血行動態良好で、当初あった出血傾向も次第に軽快しました。

手術翌朝抜管し、一般病室へもどられました。

術前に紹介医の内科先生のお力添えで、気管支拡張症も落ち着きCRP(ばい菌などの指標です)も陰性化し、安全な手術に役立ちました。

術後経過はおおむね良好でしたが、肝臓がんの術後ということもあり、少し時間をかけて回復をはかり、手術後3週間で元気に退院されました。

こうしたがんと心臓病の組み合わせの治療は、今後の展開としてはこの患者さんのように心臓手術を行ったり、カテーテル弁(略称TAVIまたはTAVR)を適宜使い分けて、より効果的かつ安全に行えるようになるでしょう。

ともあれ、あれから4年が経ち、今も外来でお元気なお顔を見せて下さいます。

肝臓のほうも落ち着いており、うれしいことです。

私たちを信頼し、ともに頑張って下さったこと、患者さんというより盟友のような気がします。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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