お便り86: 虚血性僧帽弁閉鎖不全症の再々手術で

Pocket

虚血性心筋症・虚血性僧帽弁閉鎖不全症は心筋梗塞のあと心臓が次第に壊れて強い心不全になる病気です。

一般には心臓の力が心移植レベル近くまで落ちて、全身の体力も衰弱状態となれば、心臓手術も拒否、あとはお薬でなるべくそっと持たせた後、お見送りをするだけということが多いです。

つぎの患者さんもそのお一人です。

ある日、沖縄から一通のメールが届きました。

その方のお義父さん(80歳近いご年齢)が危篤状態で何とか助けて下さいとのことでした。

患者さんは大動脈弁置換術を昔受 A335_009け、その後何年も経ってからこんどは冠動脈バイパス手術を受けられました。さらにペースメーカーの植え込み術まで必要あって受けられ、心不全がいよいよ悪化して近くの病院に入院されました。

心臓のちからはひどく落ちていました。

もうあまり生きられない、しかし手術は危険、そもそも沖縄本島でもこの手術ができるところはない、かといって飛行機で本土まで行くことさえ危険すぎるという状況で、本土でも受け入れてくれる病院はわからないというなかで、思い余って私にメールを送ってこられたのでした。

これまでも同様の患者さん・ご家族と向き合ってきた経験から、現地の状況はよく理解できました。

沖縄の主治医の先生が送って下さったデータを拝見し、虚血性心筋症・虚血性僧帽弁閉鎖不全症が悪化しており、しかもせっかくのペースメーカーもそのリード線が三尖弁を圧迫して高度の三尖弁閉鎖不全症を合併していました。すでに2度の心臓手術を受けておられ心臓は周囲の組織に癒着しており、かつ上行大動脈も拡張ぎみで、うかつに触れない状態でした。

このままでは死を待つだけの状態、しかしこの虚血性僧帽弁閉鎖不全症もペースメーカー三尖弁閉鎖不全症も再手術も私たちがちからを入れて来た病気で、手術そのものはできると考えました。

そこで当院の心臓外科医を沖縄まで派遣し、患者さんに随伴する形で守りながら名古屋までお越し頂きました。

治療戦略をチーム全員でとことん検討しました。冠動脈に新たな狭窄ができていたため、これをまず内科の先生がカテーテル治療(PCI)で応急治療してくれました。いわゆるハイブリッド治療ですね。

そして手術ではできるだけ体に負担をかけぬよう、ミックス手術を応用して右胸をやや小さ目に開け、これまでで最も有効と考えられる乳頭筋最適化術(PHO手術)を行い僧帽弁形成術としました。

さらに右房も開け、私たちの方法で三尖弁形成術を無事に完成しました。

手術前は強心剤の点滴なしでは血圧が十分には出せないほど重症でしたが、術後は次第にお元気になられ、毎日心臓リハビリで運動をこなし、栄養をつけ、心臓と全身の体力をつけて頂きました。

もとの状態よりはるかにお元気に退院され皆、うれしく思いました。

以下はその患者さんのご家族からのお礼のメールです。

こうした重症になりますと、いつもうまく行くとは限りません。しかし多くの方々が元気に生還し長生きしておられるのも事実です。やはりネバーギブアップで、まず相談と思います。

お互い、一緒に考えてそんすることは何もないと思います。

 

********患者さんのご家族からのお便り********

 

米田先生へ

おかげさまで義父は孫と話したり、少し外を歩いたりと、元気に過ごしております。

もちろん以前のように苦しがって不安で夜中に病院に行くようなこともなく、家族みな安心しております。

これも米田先生はじめ、チームの先生方のおかげです。

わたくしが3か月前、一番初めに先生にメールでご相談したとき、先生はお忙しい身でありながら、しかも紹介でもない見ず知らずの私に、3時間後にすぐさまお返事くださいましたね。

あの時は涙が止まりませんでした。


そしてこちらの病院では、高齢で余病が多く三度目の手術になることと心臓の弱り方からして、空路で転院させるのも危険だと言われた状況下、名古屋からわざわざチームの先生が迎えに来ていただいたこと、無事に手術を成功させていただいたこと、元気に帰していただいたこと、本当に本当に感謝しております。

またこれまで長年にわたって義父を守り、米田先生のところまでいのちをつないで下さった地元の病院の先生や関係の皆さんにも感謝の気持ちで一杯です。

本来なら、そちらに出向きお礼を申し上げたいところですが、取り急ぎメールにて失礼いたします。

また近況報告させていただきます。

****

 

患者さんからのお便りのトップページにもどる

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちら

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。