最終更新日 2020年3月6日
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心臓手術の前にはいろいろと心の負担があると思います。少しでも実際を知り、不要な不安を解消し、前向きに進んで頂ければ幸いです。この記事がそのために役立てばうれしいです。
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◆心臓手術のスケジュー ル:
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思ったより早く進むのですねと言われます。平均ではおよそ2週間の入院となります。
患者さんの重症度やお家の事情、遠方か近くかなどを考えてキメ細かく退院時期を相談していきます。
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◆心臓手術に必要な体力は?
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手術を乗り切るための体力が必要です。心臓はこれから治すため少々悪くても良いとして、肝臓がひどく弱っている場合は要注意です。
腎臓は機能していないときでも透析でしのげます。肺が弱って肺活量が不十分なこともあります。
こうした重症の患者さんの場合、できるだけ良い状態にもどして、 勝てる確率を上げることが肝要と考えています。
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◆心臓の位置は?
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胸の真ん中から左側にかけてあります。
右胸心の方の場合は真ん中から右側にかけて存在します。
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◆人工心肺・体外循環とは?
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オペの間、心肺の肩代わりをする超重要な器械です(写真左)。
これによって心臓を止めて中に入って病気を治せるのです。
ヘパリンと言う血を固まらなくする薬を使いますので、術後出血がないように、しっかり止血をします。
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◆臨床工学士とは
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人工心肺や透析、人工呼吸などの器械類を運転し整備してくれます。
医師と一心同体で大切なハートチーム員です。
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◆心筋保護
手術中、心停止の間、心臓をまもります。
血液にカリウム、マグネシウムその他の保護物質を入れてそれを注入します。
心臓を止めるとか止めないとかではなく、冬眠させ、修理が完了し春に目覚めるという感覚ですね。
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◆ヘパリンとは
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血がさらさらになって固まらなくなる薬です。
心臓手術で体外循環を使うときに必須です。
それが終われば中和して血が固まりやすいようにします。
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◆無輸血開心術
輸血を一本も使わずに心臓手術を完 遂したときにこう呼びます。自己血貯血をすれば無輸血率が上がります。
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◆輸血の安全性
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肝炎の危険性について、今では輸血1本につき10万分の1未満の危険性があると言われます。
ほとんどゼロに近いのですが、0ではないため、極力輸血をしないようにしています。自己血輸血では肝炎などのリスクはゼロです。
平素エホバの証人の患者さんの無輸血手術に力を入れている努力が、他の一般患者さんの輸血を減らすのにも役立っています。
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◆ 麻酔について
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当院では一般麻酔医ではなく、心臓麻酔医が行います。やはり餅は餅屋で、安全性に貢献します。
全身麻酔ですので術中の苦しみや心配はありません。
さらにポートアクセス手術などでは創部に肋間神経があるためこれをブロックし、痛みを消すようにしています。
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◆とくに人工呼吸について
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術中から術直後にかけて患者さんの呼吸が弱いときに人工呼吸器をもちいて人工呼吸します。
オペのあと、なるべくすぐに人工呼吸器から外れると後の回復が速くなります。適宜マスクを用いて肺を守ります。
一緒にがんばって早く元気になりましょう。
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◆モニター
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術直後は心電図・血圧・肺動脈圧・右房圧・組織酸素濃度、気管内圧などを同時にモニターします。
安全の確保に大きく役立ちます。
術後、歩けるようになるとモニターの大半は外れています。
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◆手術の後、ICUでは
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状態が落ち着くまで居て頂きます。
心臓手術のあと1−2日でICUを出ることができる方が多いのですが、医誠会病院ではICUに余裕があり、もう少しがっちり治療することもあります。
◆心臓リハビリ
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心臓手術のあと、心 臓に無理のない範囲でこれをしっかりと動かすことは大切です。
全身のさまざまな臓器にも役立ちますし、食欲も増進してさらに良くなります。
このリハビリにはとくに力を入れています。術前から練習を兼ねて心臓リハビリに親しんで頂くようにしています。
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◆感染症対策
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きわめて重要です。
術中に徹底した無菌操作を行います。
ちょっとでも感染しそうな動きは厳に戒め、解決しています。
創、肺、下肢の創、点滴ライン、その他細かいところも入念に調べます。
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◆創の痛み
術後の痛みはあります。
しかし私たちはこれをできるだけ軽くする工夫をしています。正中切開の場合は、安定度が極めて良い胸骨再建をするため胸骨痛を訴えられる患者さんは少ないです。
ミックス手術(ポートアクセス手術)のときには上記のように神経ブロックをして痛みを減らします。
これは効きます。
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◆入院期間
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5−6日でどんどん歩行し退院できる患者さんも多いのですが、あまり早期の退院にはこだわっていません。自宅へ帰ると間も無く社会復帰・仕事復帰という線を狙っています。また患者さんのご希望や状態によって調整します。
また遠方の患者さんの場合は若干時間をかけて安定度を上げてから退院して戴くなどしています。
独り暮らしの方の場合も同様に配慮しています。
逆にお仕事などの都合で早く退院したい方の場合にも配慮や支援をしています。
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◆社会復帰とその時期
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通常は退院後1か月で仕事復帰して戴くようにしています。
これは胸骨正中切開の場合です。
皮膚や筋肉などの治りはもっと早いのですが、胸骨は通常は完全になるまで3か月以上かかります。なので当初は重労働や重いものを持つ作業や車の運転は避けるようにお願いするのですが、私たちの場合は強固な胸骨再建のおかげでより早期の復帰ができています。退院後まもなくクルマ運転できる方が多いです。→→もっと見る
ポートアクセス法手術(ミックス手術)の場合は骨を切らないためもっと早く社会復帰できます。
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◆クルマの運転
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仕事の復帰に準じます。
前述のように私たちの病院では車の運転も早くなる傾向にあります。
ポートアクセス法手術の場合は骨は切りませんのでもっと早くから運転復帰できます。
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◆外来通院
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通常退院後1か月でご来院いただき、
経過が良ければ次は3か月後、さらに6か月後と伸ばしていき、
その後は年1度でフォローアップしています。
もとの病院やかかりつけ医と協力して全身を守りながら進みます。
たとえばまだ不整脈が出やすいとか胸に水が貯まりやすいなどの場合は早めに外来に来ていただき、安定を図るようにします。
九州・沖縄・東北・北海道など遠方の方の場合は、地元の病院と連絡を取って安全な態勢をつくり、かつ余裕をもってお帰り頂けるように少し長めの滞在にしています。
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◆心臓手術の成績
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重症の患者さんでは危険性も上がります。
それをできるだけ下げる努力をしています。
リスク補正した全国平均の死亡率と私たちのそれを比較しますと、私たちのそれは全国の半分以下です。
そもそも断られた患者さんが多数含まれるためなかなか厳しいですが、その多くが元気になっておられるため、ますますこの努力を続けます。
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◆イン フォームドコンセント
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その患者さんの手術のメリットと危険性を具体的にご説明します。
心臓手術は一生に一度あるかどうかのおおごとですので、
十分な時間をかけてお話しし、納得できるまでご質問を受けるようにしています。
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◆看護師さん
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昔は看護婦さんと呼びましたが、医療のプロとして敬意をこめてこう呼ぶようになりました。
平素のお世話をしてくれるのは彼女ら(彼ら)です。
彼女らとのチームワーク、患者さんも含めた全体のチームワークはとても大切です。
看護師さんからのオリエンテーションもありますので、しっかりと聴き、またご質問ください。
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◆おわりに
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何かと大がかりですが、それが患者さんを守ります。
いのちだけでなく、活発で楽しい生活を守ることにもつながります。
患者さん・ご家族ーコメディカルー医師全体のチームワークが大切ですし、なにより患者さんご自身が生きたいと強く念じて一緒に頑張って下さることが良い結果につながりやすいのです。
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◆ひとつお願い
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もし悩みや疑問、苦情その他がありましたら遠慮なく担当医や私までお願いします。
細かいことでも結構です。
それらを解決すること自体が大切ですし、くわえて治療成績やチーム力がさらにあがり、お互いに得るものが多いのです。
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◆患者さんの想い出:
心臓手術の患 者さんにもさまざまな病気、年齢、状態があります。それぞれに対応した手術が必要です。
Aさんは80歳男性で、遠方の紀伊半島南部からお越し下さいました。
大動脈弁、僧帽弁、三尖弁すべてが壊れて心不全になっておられました。
80歳と比較的ご高齢であったため、体力の負担を減らす目的でミックス法で心臓手術を行いました。
そのおかげで術後は痛みも軽く、大きなオペの割にはスムースでまもなくお元気に退院されました。これからこうした方法が主流になっていくのでしょう。この手術は画期的と評価されYoutubeにもUpされました。
その後も外来でお元気なお顔を見せて下さいます。遠方から私たちを信頼して来てくださる、そのこと自体が大変光栄でうれしいことです。ひとつでも多くのことでお役に立ちたい、そう思います。
Aさん、これからもお元気で楽しくお過ごしください。
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◆参考ページ
心臓手術とはどういうもの?
そのこれからの方向は
心臓外科の名医とは
手術と言われたら?!
安全に必要な症例数は?
病院の立派さと心臓外科の立派さは別?
対象となる病気は?
私のお勧めは?
術後の社会復帰について
美容について
米田正始が考案した術式は
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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