この6月21日に大阪で恒例のミックスサミットが開催されたため参加しました。
これまではサミット IN OSAKAとして内容ある研究会が大阪にて行われており、私も参加して楽しいひと時をもっていましたが、今回から全国区の研究会として正式に発足したのです。
会長はこの会を育てられた大阪大学の澤芳樹先生で、最近話題の新しいグランフロント大阪にあるナレッジキャピタルにて開催されました。
関西胸部外科学会の翌日で皆さんの勉強疲れがちょっと懸念されましたが、なかなかどうして、熱い議論が多数でて大変盛り上がったように感じました。
朝一番はビデオセッションで心臓病センター榊原病院の都津川敏範先生が前側方開胸によるMICS₋AVRを、大和成和病院の菊地慶太先生がMICS₋CABGを話されました。
それから「MICSをはじめよう」という特別企画がありました。大分大学の宮本伸二先生がその開始時の苦労と工夫を、東京医大の杭ノ瀬昌彦先生はMICS₋AVRに進むにはというテーマで、名古屋第一日赤の伊藤敏明先生は内視鏡下MICSへのステップアップ、そして心臓病センター榊原病院の坂口太一先生はMICS₋CABGをはじめるにはというテーマでお話されました。
いずれもこれからこうした心臓手術を始めようという先生方には参考になったものと思います。ただ短時間の発表を聴くだけでは、通常と少し違う状況でおこるさまざまな問題や合併症とその対策までは手が回らず、やはり時間をかけてチームを育て、熟練させるという作業が不可欠と感じました。
たとえばこの方法は良く見えるよと言われて、はいそうですかとやってみたら、全然見えない、さあ困ったどうしよう、というのが熟練していないチームではよくあります。私もポートアクセス手術の経験量が100例を大きく超えて、僧帽弁や三尖弁だけでなく大動脈弁もこなすようになって、さらにさまざまな心臓手術や再手術などもこなすようになって、本当に安心してできるようになったという覚えがあります。
そこからは趣向をかえて国際セッションとなりました。
イタリアのCampus Bio-Medico医科大学の Francisco MusumeciはヨーロッパにおけるMICSの現況を解説されました。大変幅広くやっておられるのは知っていましたので、あとで細かいところを質問などして充実したひとときでした。中でも開胸時から人工心肺に乗せることで肺を保護するというのは、体への侵襲つまり負担を増やすという一面はあるものの、肺にはやさしい、検討の価値があると思いました。1年ほど前から考えて来たのですが、そろそろ実行するときが来たように感じました。
オーストラリア・ブリスベーンの Prince Charles Hospitalの Trevor Fayers先生は弁膜症のミックスというテーマで話されました。私にとって懐かしの地であるオーストラリアでも盛り上がりがみられるようで、ロボットもぼつぼつ導入されているとのことでした。ひとつご質問をしました。オーストラリアは私的保険と公的保険の二本立てで前者は保険料が高いが選べる病院や医師が多く、公的保険ではその逆なのです。万民の平等が原則である日本では受けない制度ですが、ようするにお金持ちは多少の便宜を受ける代わりにより多額のおかねを出し、保険制度じたいが潤うのです。聞いてみますとロボットなどの高額医療はすべて私的保険の患者さんとのことでした。日本ではこうした高額医療を進めるのは患者さんの負担が極端に増えて大変だとあらためて思いました。
それからアメリカはNorthwestern大学の畏友、Chris Malaisrieが低侵襲のAVRを解説されました。これは関西胸部外科学会のときと同じテーマでしたので、もう少しつっこんだ質問をしてみました。彼の方法は私たちのポートアクセス法よりは創も目立ち社会復帰も遅れますが、動脈硬化が強い患者さんにも使えるという利点があり、私はこれまでも似た方法を使っていますが今後導入してみようかと思いました。患者さんの状況状態に合わせて一番適した方法を選ぶ、そうしたラインナップを増やせるという意味で有意義なお話でした。
ドイツはLubeck大学の Thorsten Hanke先生はドイツにおけるMICSを概説されました。新進気鋭のためかまだ三尖弁形成術などはやってないということで、もう少し頑張っていただきたく思いました。僧帽弁だけでなく必要に応じて三尖弁も治せることが患者さんの長期予後の改善に役立つからです。
午後の後半は臨床工学士(ME)、麻酔科、リハビリ、内科の先生方からそれぞれのお立場からの発表がありました。どれも優れた内容でした。とくに心臓病センター榊原病院のME長である畏友・中島康佑君の安全モニターのお話は出色のできで、これからこうした優れたMEさんが活躍してくれれば医療はさらに良くなるという意味でも素晴らしかったと思います。私のところのMEさんたちも立派に頑張ってくれていますが、彼ら同志の交流を図りたく思いました。プロとして最高の仕事をする、国際的にも活躍する、こうしたコメディカルが増えていくのが楽しみです。
また慶応大学循環器内科の鶴田ひかる先生は内科からみた適切なMICSはというテーマで心エコーの専門的立場からお話されました。見事なエコーと深い読み、鋭い考察、さすがエコーと弁膜症のスペシャリストと賛辞を贈ろうと思いました。長崎大学の江石清行先生が私が申し上げたかったことを全部述べて下さったため私は何も申しませんでしたが、私自身、かんさいハートセンターを立ち上げてこうした心エコーの本物の専門家と初めて一緒に仕事するようになってからの感動をあらためてかみしめていました。
ともあれこうしたチーム医療は極めて重要で、参考になりました。最後に慶応大学の岡本一真先生がMICSの合併症と注意点を話しされ、これまでの経験を活かすという観点から活発な議論がありました。私も発表で気になった左室破裂のケースについて質問討議いたしました。こうした負の側面を真摯に議論し、再発予防や的確な対処法を平素から鍛えあげておくことが何より重要かと思います。大阪大学の西宏之先生はレジストレーションの必要性を話しされました。これから重要になると思います。
日本の現況つまり心臓手術を行う施設が多すぎて、弁形成やミックスなどをあまりやっていない施設が大半という状況のなかで、これから安全にこれらをやっていくためには、ほんらい施設集約つまり病院を束ねて数を絞るという作業が必要です。しかしそれは各病院や大学の事情がありなかなか進みません。現実には治療成績が良い施設がより数を伸ばし、良くない施設は閉鎖して結果的に集約化が進むというのが日本の現実です。その過程で患者さんついで若い先生方やコメディカル諸君に迷惑がかからぬように守る、これが大切と感じました。
真剣でも楽しい勉強と交流をもてたMICS SUMMITでした。今回当番世話人の澤先生、お疲れ様でした。素晴らしい会をありがとうございました。
平成26年6月22日
米田正始 拝
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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