Edwards Heart Valve Front Line 2014

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この7月12日に東京で弁膜症のサミットともいえる研究会が開催されました。

演者として招待されたので行ってまいりました。

メーカー主催とはいえ、内容の充実した、興味深い会でした。出席者は原則部長クラス執刀者レベルで、高水準のディスカッションを目指したものでした。最近は若手向けのセッションが増え、好ましいことと思うのですが、たまにはこうした会も有意義かと拝察していました。

東京ベイ浦安市川医療センター循環器内科の渡辺弘之先生がディレクターを務められ、外科のアドバイザーは神戸大学の大北裕先生、榊原記念病院の高梨秀一郎先生、京都府立医科大学の夜久均先生という充実の顔ぶれでした。

渡辺先生の絶妙かつフレンドリーな司会で和やかに会は進んでいきました。ちょっと珍しいほどのエンターテイナー兼学術モデレーターでした。心エコーの講習会として有名な東京エコーラボが人気を博している理由がわかりました。

まず内科と外科で考える治療戦略というセッションで、岩手医大の岡林均先生と森野禎浩先生がそれぞれ興味深い症例を提示されました。

ついで大北裕先生と田中秀和先生の神戸大学チームから出血性脳梗塞をともなう感染性心内膜炎IEの症例を出されました。同じ脳出血でも危険なものと比較的穏やかなものがあり、皆さんこれまでも悩み苦しみ解決策をなんとか見出す努力をしてきた病態だけに議論が盛り上がりました。MRIによるT2スターは脳出血の検出や評価に有用となる可能性があり、ひとつの解決への方向が見えたのは幸いでした。

さらに羽生道弥先生と有田武史先生の小倉記念病院チーム(註:有田先生は現在九州大学)から低心機能にともなう低圧格差の大動脈弁狭窄症を提示されました。

私の経験ではこうしたケースは術後を乗り切ることができればあとの心機能は格段に改善するため、どのようにして乗り切れるようにするかに焦点を絞り、乗り切れないときに限り内科的に治療するというのが良いと思いました。二尖弁ではカテーテルバルン形成術は危険であるというのはなるほどと納得しました。

さてそこでミックス(MICS)のセッションです。

リスク回避のためのコツを新進気鋭・東京ベイ浦安市川医療センターの田端実先生と老舗慶応大学の岡本一真先生が解説されました。これまでの経験の蓄積を皆で共有できたことは素晴らしいと思いました。

ここでミックスとは低侵襲手術なのか、小切開手術なのかという本質的議論が併せてなされました。皆さん真面目で妥協のない姿勢での議論をされ、感心したのは私だけではないと思います。ただこの領域はまだ一般化できない、一部の先進施設で行う手術という印象が強く、すべては今後の展開次第というところでしょうか。

ついで安全なMICSのための工夫ということで光晴会病院の末永悦郎先生が胸骨部分切開での大動脈弁置換術、そして心臓病センター榊原病院の都津川敏範先生がポートアクセスでのそれを話されました。

そして話はコスメティックなミックスの追及へと進みました。

まず私、米田正始がLSH(Less Satelite Hole)法つまりミックス手術にありがちな副次創を最小限に抑えてきれいな創と少ない出血を達成するオリジナルな方法を解説しました。あとで多くの人たちからきれいな創を褒めて頂きましたが、それを僧帽弁だけでなく大動脈弁なかでも弁形成にまで使えることは驚きであったようです。ここまで国内外の友人たちのお力を借りて、手術を磨いてきた甲斐があったとうれしく、また感謝でいっぱいでした。このLSHに賛同してくれるひとは手術が難しいだろうという先入観からか少なかったのですが、最近シンガポールのグループもSIMICS(単一切開創のMICS)などで本格的に取り組むようになり、他にも同様の動きがでてようやく皆さんの認識が得られたようです。

私は副次創を少なくすることで質の高いミックスを目指していますが、名古屋第一日赤の伊藤敏明先生は内視鏡を活用してメインの創を小さくする方法を発表されました。内視鏡を使うと副次創が増えるため私はやや後ろ向きだったのですが、若手の教育なども加味して考えると今後の方向として、こうした努力も大切と感じました。ともあれこうした高いレベルのMICSにはなかなかついて行けないという空気が感じられ、誰もができる完成度の高い心臓手術と言えるまでにはまだまだ努力が必要と思いました。

次のセッションは複雑症例に対する手術でした。

東京医科歯科大学の荒井裕国先生は昨日までの冠動脈外科学会の会長の大任を立派に果たされた翌日のことで、お疲れかと思いましたが頑張って興味深い症例を提示されました。冠動脈バイパス術後の虚血性僧帽弁閉鎖不全症と大動脈弁狭窄症のケースでした。乳頭筋を前方に吊り上げる方法できれいに治されました。私、米田正始といたしましては、この前方吊り上げ(PHO法など)をこの10年間提唱して来ただけに、仲間が増えたことをうれしく光栄に思いました。荒井先生ありがとう。

葉山ハートセンターの磯村正先生は重症の拡張型心筋症にともなう機能性僧帽弁閉鎖不全症の一例を提示されました。重症なるがゆえに、できるだけ簡略に手術をまとめあげ、見事に救命されたこと、敬意を表したく思いました。なおこうしたケースのために私が開発した大動脈弁越しに両側乳頭筋を吊り上げる方法なら、同じ短時間でもっと心機能が良くなるというデータをもっており、今度同様の患者さんがおられたら是非活用していただければと思いました。

ディスカッションの中で大北先生が、これまでの多くのEBMデータや科学的データをもっと踏まえて手術することを勧められました。まったくその通りで、ぜひ私が提唱する前方吊り上げ(PHO)をと願わずにはおれませんでした。

札幌ハートセンターの道井洋史先生はHOCM(閉塞性肥大型心筋症)の一例を示されました。後尖逸脱による僧帽弁閉鎖不全症を合併していた症例で、普通の僧帽弁形成術ではSAMつまり収縮期の前尖の前方移動が起こってあらたな僧帽弁閉鎖不全症が発生しやすい症例で、道井先生はうまく解決されたと思いました。

ただこれまでこうしたHOCMや僧帽弁形成術を多数こなして来た経験からは、後尖の高さをさらに下げるとSAMは極めて起こりにくいとも思いましたが、こうした治療は高度にケースバイケースなので何にでも対応できる経験と実力が大切と思いました。

この疾患で最近言われている異常筋束についてはなかなか術前診断まではできておらず、今後エコーやCTなどでの一層の研究が待たれます。

宮崎県立宮崎病院の金城玉洋先生は高齢者の大動脈基部拡張大動脈弁閉鎖不全症の一例を示されました。高齢者なるがゆえに、どこまで治すのが最適か、熱いディスカッションがされました。

最後に倉敷中央病院の小宮達彦先生がやや複雑なデービッド手術の一例を提示されました。デービッド手術での大動脈弁形成術は近年進歩がみられますが、弁の付け根を小さくすれば弁は当然余ることになり、余れば下垂するのは理の当然のため、何らかの対策が必要です。そこで弁の縫縮で下垂を治すことがまず考えられますが、やりすぎると弁の他部位や基部とのアンバランスが生じます。これを難症例で示されました。大動脈基部のジオメトリーがかなり実用化して来た印象があり、これからさらにデータ蓄積して僧帽弁レベルになればと思いました。

最後まで熱いディスカッションが続いた充実の一日でした。

この会は渡辺先生のお人柄もあり、ワークショップのように皆で見える成果を造っていくということで、各セッションごとに1センテンスで持ち帰りメッセージを造って行かれたのですが、私が発表させて頂いたミックス部門では「ミックス戦国時代」でした。的を得た表現と思います。HOCMのところでは、高梨先生が上の句「逆流が、止まったあとの」を言われたあとの下の句がなかなか出てこないため、不肖私が「流出路」と発言させて戴きました。なぜか大変受け、会場全体で「オーー」という声とともに拍手頂き、面白いところで評価いただき、不思議な光栄な気分でした。後の懇親会で大北先生が「米田先生が過去20年間発言した中で一番のでき」というご発言でもう一度バカ受けしていました。口の悪い先輩は良いとして、まあ皆さんの酒の肴になれて楽しいひとときでした。

会場のホテルは東京ベイを見渡せる素晴らしいところで、来年もぜひここでという希望が多数出ていました。

渡辺先生、アドバイザーの先生方、エドワーズ社の皆さん、お疲れ様でした。


平成26年7月13日

米田正始 拝

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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