OPCAB研究会(日本AHVS研究会)に参加しました。
この会はかつて日本にまだオフポンプバイパス手術が普及していなかった頃、1990年代の終わりごろ、小坂眞一先生や南淵明宏先生らのご努力で立ち上がった研究会です。日本でのOPCABの普及に歴史的貢献をしたことで知られています。
私も2001年ごろ、まだ京都大学で勤務していたころに会長を務めさせて頂き、こうした研究会では初めてライブ手術を企画し、多くの皆様のご協力を得て大きな会場は満員御礼となり、将来ある若手に真剣な勉強の場を提供できたという想い出のある会です。
今回は北斗病院の藤松利浩先生が会長で、東京にて開催されました。
藤松先生の並々ならぬ熱意が伝わってくるような充実した会になりました。
というのはそのテーマ内容とファカルティがなかなかのものであったからです。
まず同先生の長年の友人である Mr. Paul Bannon(オーストラリア)、Mr. Hugh Paterson(同)、Dr. Deepak Puri(インド)がこの会のために来日され、熱演を振るわれたこと、力のこもった日本の現役プレーヤーが多数参加されたこと、そして研究会では珍しく全員参加の懇親会があったこと、2会場をもうけてコメディカルや若手に的を絞ったセッションがあったこと、などなどが印象的でした。
デービッド手術のセッションでは多数の経験を持つDr. Bannonが詳細な解説をされ、ついで神戸大学の大北裕先生が工夫して乗り切った難症例を提示されました。ここまでやれるのだという限界点を見せて頂きました。
石灰化大動脈における大動脈弁置換術AVRのセッションでも興味深い発表が続きました。このぐらいまでは我慢できるというレベルも術者によって意外に幅広いこともわかりました。岸和田徳洲会病院の東上震一先生の大動脈弁石灰切除はその再発率の高さから過去の手術になったとはいえ、含蓄が深く、工夫次第では今後また使えるような予感がしました。名古屋第二日赤の田嶋一喜先生の石灰化上行大動脈の処理は私たちも多数活用しており、心臓外科の進歩に貢献しておられる内容でした。
ランチョンセミナーは左室形成術がテーマでした。北海道大学の松居喜郎先生がここまでの世界と日本の左室形成術をレビューされました。私、米田正始は「左室形成術を失ってはならない」という大げさな(恐縮)テーマで、これほど患者さんに役立つ手術を、EBMデータをしっかりと蓄積検討し、育てていかねばならないことを解説しました。
というのは、術前に生きるか死ぬかの大変な状態だった患者さんたちが左室形成術によって蘇り、10年経っても元気に暮らしておられる、そうしたケースが増えて来たことを具体例をもってご報告しました。
会場のコンピュータの不都合で時間が不足し、重要症例を一例ご紹介できなかったのが残念です。それはある地方の大学の循環器内科で、この患者は重症なのでもはや心移植しかない、と断定されたあとで、移植を嫌って私のかんさいハートセンターまで来られたケースです。左室形成術(プラス私が考案した乳頭筋吊り上げ術・PHO)によってすっかり元気になられ、心機能も改善しました。これをその循環器内科の先生方にもぜひ知って頂きたく思いました。左室形成術がこれほど患者さんのお役に立っているのに、まだ内科の先生がご存じない、これは極めて残念なことで、そのために多数の患者さんが不幸になっているのは放置できません。
国際セッションではインドの先生らのご発表と、順天堂大学の加藤倫子先生がVADのエコーの発表をされました。さらにDr. Patersonが両側ITA(内胸動脈)でのYグラフトのお話をされ、内容だけでなくその見事な手術テクニックにも感嘆しました。この先生は私の左室形成術の発表にも敬意にあふれたご意見を下さり、昔からの仲間とはいえ、うれしく光栄に思いました。上記のBannon先生も含めて、オーストラリアは心臓外科先進国であることをあらためて感じました。世の中は広い、学ぶべきものは無限にあるといつも思います。
ビデオライブでは僧帽弁形成術がテーマで、小牧市民病院の澤崎優先生が弁尖の切除と人工腱索の比較を、東京医大の杭ノ瀬昌彦先生が高齢者へのミックス弁形成術を、倉敷中央病院の小宮達彦先生がバーロー症候群での弁形成を、名古屋第一日赤の伊藤敏明先生が完全内視鏡下のミックス手術でのループテクニックを披露されました。私はその一部しか参加できませんでしたが、勉強になりました。
そのあと研究会らしからぬ懇親会がありましたが、残念ながら他学会の会議のため参加できませんでした。
総じてことしの日本Advanced Heart & Vascular Surgery/OPCAB研究会は内容的にも盛り上がり方でも大成功だったと思います。
会長の藤松先生、サポートを下さった北斗病院の皆様、ご苦労様でした。北斗病院ハートセンターの名前は十分に浸透したものと存じます。来年北海道で再会できればと楽しみにしております。
平成26年7月10日
米田正始 拝
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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