虚血性心筋症は現在も重症でしばしば心移植しか治療法がないと言われます。
そうはいっても心移植はなかなか順番が回ってきませんし、補助循環(いわゆる人工心臓)を使っている人たちが優先することが多いですので、普通の心不全の症状では逆に治療法に困ることがあるのです。
患者さんは60代男性で起座呼吸を主訴として来院されました。
つまり心不全としては4段階の4、つまり最重症に入ります。
過去20年間に4回のPCIつまりカテーテルによるステント治療を受けておられます。しかし心不全が悪化し、来院されました。心エコーにて左室駆出率28%つまり健康者の半分以下、そして僧帽弁閉鎖不全症の増悪も認められました。このままではもう、あまり長くは生きられないという状況でした。
しかしよく見ればまだ心筋がかなり残存している所見があり、左室の悪い部分が比較的明瞭で、心臓手術とくに冠動脈バイパス手術と左室形成術そして僧帽弁形成術で改善できると判断しました。
体外循環下、心拍動下にまず静脈グラフトを右冠動脈に取り付けました。
さらに左室を前壁で開け、中を調べました。
前壁と心室中隔の前部分が心筋梗塞でやられており、それ以外は比較的壊れていませんでした。
これは治せるという所見です。
そこでDor手術の簡便さとSAVE手術のきれいな形の両方をもつ、私が開発した方向性Dor手術を行いました
通常のフ ォンタン糸と呼ばれる糸を4分割して梗塞部分と健常部分の境界部にとりつけました。
そしてその糸をくくることで左室の短軸つまり横方向に主に縮小させました。
左室はかなり小さくなり、予定のサイズまで戻りました。
それと同時に形を長細い、洋なし型に整えました。
左写真の左側は縮小前、同右側は縮小後の姿です。
主に横方向に小さくしていますが、
心尖部が瘤化しているため長軸方向にもある程度は縮小しています。
最後にパッチを縫い付けて左室形成術を半ば完成させました。
そのうえで、左房を開けて僧帽弁を調べました。
やはり左室 が悪化したために弁が閉じなくなっただけで、弁そのものは良好でした。
そのため私が考案した乳頭筋の前方吊り上げを行い、それも前尖と後尖のどちらもが前方へ引かれるように工夫し、リングをつけて完成しました。
弁はきれいに閉じるようになりました。
最後に左室の切開部を閉じ、内胸動脈LITAを前下降枝にバイパスし、操作を完了しました。
術後経過は良好で、まもなくお元気に退院されました。
あれから5年が経ちますが、お元気に普通の生活を送っておられます。
その後もこの左室形成術で多数の患者さんをお助けできていますが、昔、救命できなかった患者さんのことを想いだしてはさらに精進しお役に立てるような心臓手術を磨いていきたく思うのです。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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