患者さんは40代の医師で僧帽弁閉鎖不全症のため北海道からお越し下さいました。仕事熱心な先生でなるべく短期間で健康な生活に戻りたいというご希望で来院されました。
やや複雑な逸脱のため地元では僧帽弁形成術ができるかどうか??ということではるばるハートセンターを選んでくださったようです。
お若く体力もあるためか当初、比較的症状は軽かったのですが、発作性心房細動を外来で起こされ、心臓手術を何年も先ではなく今やろうと決意されました。
術中、僧帽弁を見ますと術前のエコー予想どおり、後交連部の逸脱でした。(写真右上)
なかでも前尖A3つまり向かって右側の太い腱索が断裂しており、A2つまり前尖中ほども逸脱、PCつまり後交連部も逸脱していました。
A2-3とPCだけでなく後尖P3つまり後尖右側も軽度逸脱(写真左上)していたため、これらをすべて良い形にすることが長期の安定につながると判断しました。
そこでA3に4本人工腱索を立て、PCとバランスをとることでこれを守り(写真右)、
かつA2にも人工腱索を立てて正常化を図りました(写真左下)。
ここで生理食塩水を左室内へ注入し僧帽弁がきれいにか み合い、逆流がないことを確認しました。
リングをもちいて弁輪形成し、
念のため逆流試験で良い結果を確認(写真右下)し、
ピオクタニン色素で深いかみ合わせができていることも確認しまし た。
術前に発作性心房細動を何度か繰り返しておられたため、両心房メイズで心房細動を根治し、
後顧の憂いなく仕事に集中していただけるようにしました(写真左下)。
その後も外来でお元気なお姿を拝見するにつれうれしさがこみあげてきます。
あれから4年、ますますのご健勝とご活躍をお祈りいたします。
健康人と見分けがつかないほどの良い治り方は弁形成術ならではの利点です。複雑弁形成が必要なため人工弁による僧帽弁置換術になるかも、と言われた患者さんはセカンドオピニオンをもらって本当に僧帽弁形成術ができないかどうか、確認されることを勧めます。
それともう一点、現在ではこうした心臓手術はポートアクセス法などのMICSでできるようになっています。多数の経験をもつ専門施設に限られますが、こうしたことを検討するのも大切です。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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