患者さんは40代男性で僧帽弁閉鎖不全症と心房細動のため弁形成術と不整脈手術を求めて遠方からお越し下さいました。
お仕事の都合でイギリス在住でした。イギリスは心臓外科先進国ですが、その在住エリアの中心的病院で人工弁による僧帽弁置換術しかないと言われてはるばる私の外来へ来られました。
調べますと後交連部を中心とした比較的広い範囲の僧帽弁逸脱と逆流でした。
私にとってはいつもの手術ですので95%以上は形成可能と判断し、あわせて私たちのメイズ手術は単なる肺静脈隔離(PV isolation)より成績が格段に良いためこれも行うことになりました。
術中、まず弁を調べますと、後尖交連部のPCと呼ばれる部分が腱索断裂し瘤化して完全に逸脱していました。
となりの後尖右側のP3と呼ばれるところは低形成かつ逸脱し、
さらに前尖の右側部分であるA3も逸脱し、逆流ジェットが当たっていたためか肥厚していました(写真右)。
前尖も弁輪もかなり大きく、余裕があったため
シンプルで 長期の安定性が証明されている四角切除を行うことにしました。
弁として作動できない部分を四角に切除し弁輪を少し整えたあと前後の弁尖を再建しました(写真左)。
リング30mmを縫着しました。余裕あるサイズでした(写真右)。
インクテストでも十分な弁尖のかみ合わせが確認でき(写真左下)、
写真の青いところが特殊インクで染まった部分で、白いところが弁尖のかみ合わせ部分となります。
なおこのインクは無害でまもなく消滅します。
リングの糸をくくる前に冷凍凝固法にてメイズ手術を施行しました(写真右下)。
お若いご年齢を考慮し、極力再発しないように冠静脈洞の外側からもブロックラインを造りました。
写真左下がそのときのものです。心臓の外側にも不整脈の原因があるためこれを丁寧に治します。
心拍動下に 右房のメイズも行いました。
術後の経食エコーにて僧帽弁、三尖弁とも良好であることを確認しました。
心房ペーシングが良く効き、心房細動が治ったことをも確認しました。
術後経過は順調で約10日で退院され、しばし郷里で体調を整えてからイギリスへ戻られました。
術後の定期検診でも弁、リズム、心機能とも正常で、仕事にも精出しておられ、うれしい限りです。もちろん利尿剤も不整脈のお薬もワーファリンもなしで行けています。
すでに心臓手術から4年以上が経ちます。この弁はおそらく一生お役に立ち続けるものと考えます。また定期検診でお会いしましょう。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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