事例: デービッド手術を受けたマルファン症候群の患者さん 2

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デービッド手術大動脈基部拡張症に対する自己弁温存手術として大きな役割をになっています。

かつてこの手術をトロントで恩師デービッド先生が開発されたとき、私はチームの一員として参加していました。ホモグラフト、ステントレス弁、ロス手術、上行大動脈置換術などの手術を磨き上げるなかで、おのずと必然的にこの基部再建手術が生まれていったことをアートとサイエンスのすばらしい一例と思いました。

20年以上前にこの術式を行っていましたが、実のところ、この良さだけでなく弱点盲点も知っていたため、その後この術式を見合わせていました。しかしトロントやスタンフォードでの長期成績がでて、自分の中で疑問が解消したため、数年前から再開していたのです。

この手術を希望してあちこちから患者さんが来られますが、次の患者さんは関西から来られました。

患者さんは約40歳の男性で

以前からマルファン症候群を指摘されていました。術前CT

2年ほど前から大動脈基部拡張症のため近くの病院でフォローを受けておられました。

最近胸痛発作が起こるようになり、セカンドオピニオンで米田正始の外来へ来られました。

当院での治療を希望されたため、その後検査を施行しました。

大動脈基部は直径50mmに達しており、大動脈弁もやや寸足らずになり始めて軽度の大動脈弁閉鎖不全症が発生していました。

マルファン症候群では大動脈組織が弱いため、一般の大動脈基部拡張症の図1基部剥離患者さんより一歩早く治すことが勧められているため、心臓手術することにしました。

体外循環・大動脈遮断下に

拡張した上行大動脈(写真左)を横切開、離断しました。

まず大動脈 図2弁計測中基部のサイズを測定し(写真右)、

大動脈弁再建の予測を立てました。

それから大動脈基部の骨格部分をきれいに出して、患者さんご自身の弁尖を温存しつつ、人工血管をその周囲に 図3第一層糸かけ縫い付ける準備をしました。

適切なサイズのダクロン人工血管を大動脈基部の外側に配置し、固定しました(写真左)。

さらに、大 図5第2層糸かけ動脈基部の骨格部分を人工血管の内側に縫い付けました(写真右)。

このとき、弁尖の形、かみ合わせ、位置関係が最適になるように微調整を行いました。

水テストで弁逆流がないことを確認しました。

図6左冠動脈入口部そこで左冠動脈の入口部分を人工血管に小穴をあけて、

そこへ縫い付けました(写真左)。

同様に右冠動脈の入口部分も人工血管に縫い付けて、

冠動脈の流れがスムースに行くように、

かつまったく血液がもれないようにしました(写真右下)。

 

大動脈弁の 図7右冠動脈入口部一番高いところ、いわゆるSTJ(Sino-Tubular Junction)と呼ばれるところに糸をかけて、

大動脈基部のバルサルバ洞と呼ばれる部位が適度なふくらみをもつようにしました。

図10出来上がりあとは人工血管のもう一方の端を弓部大動脈に吻合して操作を完了しました(写真左)。

術後エコーで大動脈弁の機能は良好で、CTにて人工血管がきれいになじんでいることが示されました(写真右下)。

術後経過は 術後CT順調で術後2週間を待たずに元気に退院されました。

術後1年の外来でもお元気で仕事をこなしておられ、心臓のホルモンであるProBNPも102と正常で、心臓・大動脈とも安定していました。

術後3年が経過し、お元気で順調です。

デービッド手術はこうした若い患者さんたちの予後や生活の質(QOL)の改善に大きく貢献するものと思います。

現在はこのデービッド手術を小さい創でおこなうミックス法で行うようにしており、若い患者さんが手術後にできるだけ精神的ストレスのないように心がけています。

さらに大動脈弁形成術を適宜併用してできるだけ自然で長持ちする弁形態を整えるようにしています。

こうした努力の積み重ねでさらに成績は向上していくでしょう。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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