最終更新日 2025年1月11日
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◾️僧帽弁形成術で時に使われるアルフィエリ法とは
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この方法はイタリアの同じ名前の先生(写真右、熱くても温厚な良い先生です)が90年代 に発表された僧帽弁形成術の方法です。
何しろ簡単 にできるため当時から多くの心臓外科医の注目を集めました。
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僧帽弁の前尖と後尖を中央付近で糸で縫ってつなぐ、ただそれだけで弁の逆流が止まるということでした。しかしその治療成績があまり良くないことがわかり、心臓外科ではやむをえないときの最後の手段と位置づけるひとが増えました。
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私自身、弁形成で困ったときの緊急退避と位置付けていました。
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◾️アルフィエリ法、最近の展開は、、
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この数年間、このアルフィエリ法をカテーテルで行うMクリップが登場し、その根拠となったアルフィエリ法にも再度注目が集まっています。
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ではこの方法の現実の結果はどうでしょうか。
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まず僧帽弁の後尖逸脱による僧帽弁閉鎖不全症では、弁輪形成(略称MAP)とアルフィエリ法を併用すれば良い結果が比較的長持ちすることが報告されています。
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前尖と後尖が両方逸脱しているような複雑なケースでも、両方が同じ部位で逸脱している時に、弁輪形成とセットでやればまずまず良いという報告がみられます。
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拡張型心筋症のため機能性僧帽弁閉鎖不全症になっている患者さんではどうでしょうか。この場合も小さいリングで弁輪形成を併用するならば、アルフィエリ法の成績は悪くありません。
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その一方、僧帽 弁のいろんな部位が壊れているときや、リウマチ性の僧帽弁膜症ではアルフィエリは使えません。
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この方法では弁口を2つに分割する結果になり、当初は僧帽弁狭窄症が懸念されましたが、上記の正しい適応を守ると狭窄症は起こらないことがわかりました。
運動負荷をかけるときにも良い結果がでました。
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その反面、弁輪形成術(MAP)をやらなかった症例つまりアルフィエリ法単独の場合はまもなく弁の逆流が再発し、結果は悪いという報告があります。
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弁輪形成しないと前尖と後尖が深くかみあうことができず、弁輪拡張と逆流増加の悪循環に陥るためと考えられています。
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要するに僧帽弁輪形成をともなってこそのアルフィエリ法であり、単独では長期の安定は期待できないことが示されているわけです。
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◾️するとMクリップは、、、
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こうしたEBMデータをもとにして考えると、カテーテルによるMクリップは僧帽弁輪形成をともなわない、単独アルフィエリ法ですの で治療成績は良くないはずのものです。それを裏付けるように、ヨーロッパではMクリップのあとで逆流再発し、やむなく弁形成手術に至るというケースが増えています。Mクリップのために弁が壊れて、手術のときには弁置換になってしまうことも増えています。
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ただし、心臓手術と比べて侵襲つまりからだへの負担がはるかに軽いというメリットは確かにあります。手術はできない状態だが、逆流を少しでも減らせればそれだけ患者さんは楽になる、といった状況でのメリットはきっとあると思います。
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◾️アルフィエリ法、まとめ
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どの治療法でもそうですが、その限界やマイナス面も熟知して、良い面を活かすことは大切とおもいます。
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「切らずに治せるんだってー!」とMクリップに飛びつくのは危険ですし、しかし手術が危険でできない人にMクリップを使わないのも残念で す。
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ということで、ハートチームで多角的にその患者さんにベストの方法を選ぶことが最高と思います。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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