最終更新日 2025年1月1日
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◾️フロリダスリーブ手術とは
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フロリダスリーブ手術は2005年にフロリダのHessらによって報告された大動脈基部再建の手術法です。
その簡便さに特長があります。出血も殆どなく確実な方法です。
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◾️これまでの大動脈基部再建の手術は
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大動脈基部拡張に対しては現在、自己弁温存式基部再建いわゆるデービッド手術 (reimplantation法)とヤクー手術 (remodeling法)が代表的なものとして知られています。自己弁を温存すれば、逆流がしっかりと制御されている限り、弁は長持ちし、かつワーファリンなども不要という、患者さんの生活の質(QOL)を高めるために大いに役立ちます。たとえばスポーツを楽しんだり忙しい仕事に打ち込みやすくなる、あるいは若い女性の場合なら妊娠出産などにも対応しやすくなります。
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デービッド手術は大動脈基部を人工血管で完全に守るため安定度が良いことは以前から知られていました。この手術の開発者であるデービッド先生(Tirone E. David)は我が尊敬する恩師であり、著者はトロント大学留学時代の1990年代終わりごろからこの手術の開発に関与して来たため、四半世紀以上の経験があり、その特徴はよくわかります。何といっても大動脈基部を完全に守れるという利点が大きく、当初弱点と言われたバルサルバ洞の膨らみのなさも、手術手技の工夫やバルサルバ洞付人工血管の活用で解決され、より優れた方法として現在に至っています。技術的にはやや熟練を要する、つまり慣れていない外科医では成績が安定しづらい一面が指摘されています。
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これに対してヤクー手術は大御所Magdi Yacoub ヤコブ先生がより早い時期に開発された術式で、元来はバルサルバ洞の膨らみを良く再現できるという利点とともに、弁輪部の保護が不完全という弱点を持っていました。ところがドイツのシェーファー先生らの工夫で弁輪部付近の補強が確実にできるようになり、この弱点がかなり解消されました。このヤクー手術のほうがある意味、機械的に縫合しやすい一面があり、やりやすいのですが、それでも出血させない確実な腕が必要で、経験量の少ない外科医にはやや高いハードルのある手術と言われています。
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◾️そしてフロリダスリーブ手術
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フロリダスリーブ手術は上記の2つの手術のうち、デービッド手術を簡便にしたものです。
つまり人工血管で大動脈基部を外から包むだけ、ただし左右冠動脈を温存するためにその人工血管にスリットを入れて上から挿入するというわけです。これによって出血が起こるとしても上行大動脈の吻合部だけとなり、ここに集中して完全止血が容易になるというわけです。
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◾️フロリダスリーブ手術の注意点と利点
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現実には大きくなった大動脈基部をやや細めの人工血管の内側に入れ込むために、もとの大動脈基部が変形します。これが弁逆流を起こさないよう、注意して形を整えるという作業と技術が必要です。また左右の冠動脈入り口が人工血管で横から圧迫されないよう安定させることも肝要と思います。
デービッド手術に慣れた術者ならそう問題なくできる手術ですが、デービッド手術が怖いというレベルの術者がこのフロリダスリーブ手術をやるのは安全上好ましくないと思います。
フロリダスリーブ手術では出血がかなりしにくいため、エホバの証人の信者さんや、将来基部再建が確実に必要と考えられるマルファン症候群の患者さんたちに、一歩早いタイミングで、数段安全な手術を提供できる可能性があります。また治すところが何箇所もある患者さんの場合、フロリダスリーブで時間をうんと稼ぎ、その他の修復が余裕を持って安全に行えるという利点も見逃せません。
右写真はこのフロリダスリーブ手術の前(左側)と後(右側)のCT写真です。大動脈基部の張り出しが治まり、上行大動脈は人工血管によって適正サイズとなり、近位弓部大動脈はラッピングによって細くなり、かつ守られています。出血も少なく安全な手術ができています。
ガイドラインを遵守しつつ、これまで以上の安全性で確実な自己弁温存式の手術ができる、このメリットをこれから確立して行きたいものです。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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