左室形成術はかつて一世を風靡するほどの勢いがありましたが、スティッチ(STICH)トライアルという欧米の研究以後はアメリカなどでは下火となりました。その理由は、この欠陥トライアル研究では左室形成術が不要な軽症の患者さんに左室形成術を行って、明らかな利点がなかったからです。当然の結果ですね。左室形成術が必要な、もっと左室の大きい重症患者さんでデータをとってほしかったですね。
ともあれこのことは左室形成術で多数の重症患者さんをお助けしてきた心臓外科医には大変迷惑なことでした。心臓内科の先生の多くは「ああそうか、左室形成術は効果がないんだ」という誤解をされ、内科から患者さんのご紹介が減ったからです。
そうなると、心移植が受けられないご高齢や糖尿病、腎不全、膠原病その他多数の患者さんたちを守る術が消えたようになってしまいました。ホームページなどで私たち心臓外科医に到達した人だけが恩恵を受ける、左室形成術はそんな手術になってしまっています。
現在日本で本格的な左室形成術を行える病院はごくわずかです。
私たちはその数少ない病院として患者さんの救命に全力を上げています。また科学的データを蓄積し、内科の先生方や社会に発信していく所存です。
以下の患者さんも左室形成術の恩恵を受けられたお一人です。
若い頃から弁膜症のため何度も心臓手術を受けられ、心臓がほとんど動かなくなっていました。弁膜症手術をした病院ではもうこれ以上打つ手なし、心移植もだめと言われ、途方にくれて私の外来に来られたものです。まだ40代の若さで何もできないほど心不全と全身の衰弱状態になっておられました。
2つの弁が人工弁で左室の直径100mm(正常の2倍)、駆出率13%(正常の5分の1)は確かに大変な状態でした。
しかし左室を詳しく調べると、これは私たちの新しい左室形成術で改善するタイプであることがわかりました。
手術後、しばらくは全身の疲れが前に出て様々な治療を要しましたが、3週間ほどでかなりお元気になられ、間も無く退院していかれました。現在は外来で徐々に体力のパワーアップを図っているところです。
左室の直径は70mmに、駆出率は30%まで回復しています。
下記はその患者さんのお母様からのお手紙です。
永い間のご苦労が偲ばれます。本当にご苦労様でしたと申し上げたいです。しかし患者さんにはこれからもっと前向きに、もっと楽しく快活な新しい人生を送っていただきたく思います。良くなった心臓を外来でさらに磨きたく思います。一緒に楽しくねばり勝ちしましょう。
******** 患者さんのお母様からのお手紙 ********
米田先生、皆さん、子供を助けて下さってありがとうございました。
感謝します。
中学1年の時、子供が胸が苦しいと、旧**病院で診ていただいたのですが、恋の悩みだと言われて、
31歳の時、また胸が苦しいと言って**医院で診ていただいたら、先生がこれはおかしいと言われ、**中央病院を紹介して頂きました。そこでは(外来は)1週間に一回だけ、滋賀県の先生が診て下さるだけなので、すぐ入院をした方がいいと言って下さいました。滋賀県は遠いからと言って京都の病院を紹介して下さいました。
(息子は)トラックの運転手をしていましたので無理をしていたと思います。4回目になる今回の手術の時は私たちは諦めておりました。
元気に帰れるとは思いませんでした。
先生、皆さんのおかげです。
私が生きている間は忘れる事はないと思います。
本当にありがとうございました。感謝します。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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