いい心臓・いい人生 【第九十六号】ソウルに行って参りました

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いい心臓・いい人生 【第九十六号】ソウルに行って参りました
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発行:心臓外科手術情報WEB
https://www.shinzougekashujutsu.com
編集・執筆: 心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
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お盆が過ぎましたが残暑がまだまだ続くこの頃です。皆様いかがお過ごしでしょうか。

 

この8月17日から19日まで韓国のソウルに行って参りました。第19回国際弁膜症
シンポジウムに呼んでいただいたためです。

 

北朝鮮からグアム島にもしミサイルが発射されたら、場合によっては大変なことになる
のでは、という声もある中で、まあ関係者も人の子、お互いを滅ぼすような愚かなことは
するまいと考えて行ってきました。ソウルの雰囲気は全く平和なものでした。

 

今回会長のChang先生は韓国の名門・延世大学の教授で長年の友でもあり、是非おいで
と言われて断ることができなかったという事情もあります。

 

延世大学を訪問するのは3回目で、前回は10年ほど昔のことで、懐かしい思いでした。
日本の大学と比較すると、欧米の良いところがふんだんに取り入れられており、というより
欧米の大学にそっくりで、韓国は昔、良いものを導入したと改めて思いました。

 

病院の規模や内容、もっと具体的には手術数まで欧米レベル、日本の大学病院の5倍から
10倍はあり、まさに大学病院の名にふさわしいものでした。10年前、すごいなあと
感心した延世大学病院のメインの建物は今見ても立派なものでした。まあ日本では民間
病院が頑張って良い環境を創り、大学とコラボし支援するというのが現実的なのでしょうか。

 

シンポジウムでは世界の弁膜症手術のエキスパートが集まっており、私はその末席を汚せる
ことを光栄に思いました。それぞれが最新の成果を披露し、お互いにしっかりと
ディスカッションして学ぶ、そうした貴重な場となりました。また循環器内科の先生方も
韓国を中心に多数参加され、大変好ましいことでした。

 

例えば加齢性の僧帽弁閉鎖不全症に対する僧帽弁形成術ではドイツのペリエ先生やイタリア
のアルフィエリ先生などお馴染の大家が最近の進歩をお話されました。最近の自分の経験
から色々意見交換でき、直接得られる貴重な一次情報でした。またスタンフォード
大学の畏友・Joseph Woo先生が持ち前の芸術的手術を披露され、また感心しました。
リウマチ性僧帽弁膜症に対する弁形成術はアジアが世界をリードしていますが、その中でも
トップランナーである畏友・Taweesak先生の最近の手術が見れたのも良かったです。
毎年、確実に進歩している内容を突っ込んで見たところ、よく見てくれてるねとお礼を
頂きました。特に心膜パッチを使わずに複雑形成ができるところが素晴らしいと思いました。

 

アジア弁膜症アカデミーの代表であるSaw先生やバンクーバーの Jian Ye先生らと久しぶり
に、それも中身のある話ができたのも良かったです。

 

心房細動の治療では本家本元のJ Cox先生(元セントルイスのワシントン大学)が開発の
苦労話から最新の技術、そしてこれからの方向性までをユーモアを交えて話しされました。
私がCox先生のお話を初めてお聴きしたのはまだトロントで修行していた1990年ごろだった
と思います。世の中にはこんなにすごいものがあるのかと感銘を受けたのを覚えています。
いつかはこうした手術をと思い、2000年代に入って心房縮小メイズを開発し、ちょっと
恩返しした気になっていました。Cox先生は心房縮小してこそメイズ手術の真価が発揮される
と言ってくださり、光栄でした。

 

Cox先生の直弟子でもある東京医大教授・新田隆先生が心房細動の病態の研究を発表され、
5年や10年では成し得ない、優れた研究で、同先生がもしアメリカ国民ならCox先生の
後継者になられたのではないかと思いました。

 

心不全に対する左室形成術はSTICHトライアルという欠陥研究のために現在下火になって
います。大阪大学医学部長の澤芳樹先生がこのSTICHトライアルの問題点を講演され、
内科の先生方にも少しは真実がご理解いただけたのではと期待してしまいました。

 

私はこの春にボストンのAATS100周年大会で発表した機能性僧帽弁閉鎖不全症に対する
僧帽弁形成術、PHOと呼ばれる前方吊り上げ術の成果をお話ししました。
カテーテル治療であるMクリップではなし得ない、左室を甦らせるこの手術に賛同して
下さる先生が増えてきて、嬉しいことです。アメリカでもヨーロッパでも是非使いたい
と言って下さる大家が増え、これからが楽しみです。

 

2日間のソウル滞在で、北からグアムにミサイルが飛ぶこともなく、平和に楽しく熱い
時間を過ごせました。ご招待下さったChang先生や、参加の先生方に感謝申し上げます。
また出発直前に大きな心臓手術のお手伝いをし、うまく行ったのを確認してから飛行機に
乗ったのですが、その後も患者さんをしっかりと守ってくださった氏家敏己先生はじめ
医誠会病院の皆様に感謝申し上げます。

 

敬具

 

平成29年8月20日

 

米田正始 拝

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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