お便り133:試練3回の後、ついに健康を勝ち取った患者さん

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僧帽弁形成術はまだまだ経験に基づく名人芸的な一面があります。

複雑僧帽弁形成術の場合はその傾向が顕著です。中でもMICSつまり小さい傷跡で行う方法の場合は術者間や病院間の差が大きいです。

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下記の患者さんは名古屋の病院でMICS僧帽弁形成術を受けられ、残念ながら不成功でした。

そのままでは心不全が進んで行くため、その病院で2回目の弁形成術を受けられました。今度は余裕がないため正中からの手術つまり通常の胸骨を切る形での手術となったようです。

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しかしIMG_1534それでもまた弁形成はうまく行かず、山のように利尿剤を処方され、何とか心不全をしのいでいるという状態で、医誠会病院の私の外来を受診すべく大阪まで来られました。次は人工弁を使う弁置換術しかない、と言われて来られました。

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診察し、心エコーを拝見すると、これは弁形成ができる!と判断しました。人工腱索を必要に応じて6本でも12本でもそれ以上でも立てられる独自技術を持っているためです。2本とかせいぜい4本しか立てられない技術では真似のできない手術です。

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沢山の利尿剤を飲んでおられ、心臓だけでなく腎臓まで壊れそうになっていたため手術を早めに予定しました。手術は首尾よく進み僧帽弁はすっかり良くなりました。

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以下はその患者さんの奥様からのお便りです。ちなみにご主人はこのままではダメになると必死にネットを調べ、運命を変えた奥様こそご主人のいのちの恩人と思いました。

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********* 患者さんの奥様からのお手紙 ********

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米田先生へ

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メルマガ「いい心臓、いい人生」103号届きました。
明日梅田で講演があるとのこと、ぜひお聞きしたい内容ですが残念ながら伺えません。

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暖かくなってきて夫は朝晩の散歩を楽しんでいます。

こんなに軽やかに再び歩き回れる日が来るとは思ってもいませんでした。

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名古屋の病院での2回の僧帽弁閉鎖不全症の形成術が上手くいかず絶望的な気持ちになりながらも何か光はないかとインターネットで「心臓手術は何回までOK?」と検索して米田先生を見つけました。

ホームページの「メールでのご相談受け付け中」という文字に「こんなに忙しそうな心臓外科手術専門の先生がほんとに返事をくれるのかしら?」と思いながらも藁をも掴む思いで送信しました。

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4時間後くらいに先生から「飲んでいる薬のリストを見ると状態は良くないです。詳しくは診察してみないと分かりませんし遠いですが来られますか?」と返事が来ました。それでもまだ半信半疑でした。

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会ってみなければ分からないと思い娘と3人で大阪に向かいました。11月27日でしたね。外来の患者さんの診察が終わった後、2時頃だったと思います。それから4時間の間、名古屋の病院での治療データと医誠会病院で受けた検査データをじっと眺めながら「もう一度形成術で行けると思いますよ」と私たちが耳を疑うようなことをおっしゃったのです。手術がたとえ受けられたとしても人工弁しかないと言われそう思っていたからです。

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先生はご自分の見解を経験に裏打ちされた自信を持って丁寧にとても分かりやすく説明してくださいました。その言葉の端々に患者の生活や人生を思いやる温かさがにじみ出ていてほんとに心強く昨日までの不安が一気に吹き飛びました。しかも飲んでいた薬の関係でなるべく早くに手術をした方がいいということで他の手術の予定を繰り下げて夫の手術を12月に入れてくださいました。

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手術は上手く行き、おまけに不整脈が起きにくくなるメイズ手術まで行ってくださいました。

麻酔から目覚めた夫が「気管挿管がいつ抜かれたのか気付かなかった。前の2回の手術ではあの菅を抜くのがものすごく辛かったのに。ほんとに手術をしたのかと思うくらい体が楽だ」と言ったのが印象的でした。その後も回復が早く、同じ手術でどうしてこんなに予後が違うのか不思議でした。

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医誠会病院はとても古く廊下も狭くて10人部屋があったりして驚かされましたが先生はもちろん、看護師さん、検査技師、スタッフの働きぶりに不満を感じたことはありませんでした。病院は建物ではなく中身だと改めて思いました。

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名古屋から新大阪までの新幹線通いは正直大変でしたが行く度に夫が元気になって行くのを感じられることが楽しみでした。
米田先生との出会いがなければ今こんなに幸せな気持ちではいられなかったと思います。

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先生は「僕が死んだ後を若い先生たちに引き継いで欲しいんですよ」と日本の心臓手術のレベルアップを本気で願っておられる話を熱く語っていらっしゃいましたね。私たちのように諦めることなく幸せになる患者本人、家族がどんどん増えると確信しています。

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3ヶ月後に診察に伺います。先生にお会いできるのがとても楽しみです。
何度感謝を申し上げても言い尽くせませんが本当にありがとうございました。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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